ヴァシュロンコンスタンタンが選ばれる理由。歴史と魅力、おすすめモデルを紹介

監修:Endo Youkoh
2023/11/13

時計業界には、雲の上の存在として君臨する、3つのブランドがあります。
スイスの世界遺産にも指定されている時計の谷ジュウ渓谷や、時計都市ジュネーブに点在する小さな工房から、世界三大時計ブランドの歴史は始まりました。
このコラムでは、世界三大時計ブランドの一角を担う、ヴァシュロンコンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)の歴史や魅力についてご紹介します。

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ヴァシュロンコンスタンタンとは?

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出典:https://www.vacheron-constantin.com/

ヴァシュロンコンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)は、若き時計技師ジャン=マルク・ヴァシュロンが1755年に創設したブランドです。
本社があるスイス・ジュネーヴのプラン=レ=ズゥアトには、やはり世界三大時計ブランドの一角であるパテックフィリップも本社を構えています。

またピアジェも本社を置き、ロレックス最大の工場がある場所としても知られています。
ジュネーヴは時計産業の都市として世界的に知られていますが、ここプラン=レ=ズゥアトはその中枢のひとつです。

ヴァシュロンコンスタンタンは、世界中の王侯貴族や為政者、セレブリティをとりこにしてきました。
約270年の長きにわたり、名を絶やすことなく時計開発・生産を続けてきた名門中の名門ブランドです。

絶えることなく紡がれた歴史

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出典:https://www.vacheron-constantin.com/

ヴァシュロンコンスタンタンは1755年に創業して以来、歴史を途絶えさせたことのない時計メゾンです。
創業者のジャン=マルク・ヴァシュロンは、ジュネーヴの織物職人の家に生まれ、24歳の若さでジュネーヴ中心街のサン=ジェルヴェに工房を開きました。

初代のジャン=マルク・ヴァシュロンがはじめて弟子を雇った際の契約書は、今も古文書として保管されています。
世界三大ブランドの中でも、ヴァシュロンコンスタンタンは群を抜いて長い歴史を誇ります。

初代の後を継いだ次男、アブラアン・ヴァシュロンの世代は、フランス革命やジュネーヴ併合など、激動の時代でした。
国の根幹を揺るがす乱世にあっても、アブラアン・ヴァシュロンはブランドを守り抜き、初のオープンフェイス懐中時計をリリースしています。

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出典:https://www.vacheron-constantin.com/

1810年から経営を引き継いだ三代目のジャック・バルテルミー・ヴァシュロンは、フランス・イタリアへの輸出をスタートさせました。輸出業で、彼はブランドの歴史上、もっとも重要な人物と出会います。


同郷ジュネーヴ出身の商人で、複雑機構時計への熱意からジュウ渓谷などを旅していたフランソワ・コンスタンタンです。
2人は意気投合、優れた商才を持つフランソワ・コンスタンタンとジャック・バルテルミー・ヴァシュロンは共同経営に乗り出し、本格的にヨーロッパへ販路を拡大しました。

ヴァシュロンコンスタンタンの企業信条である「できる限り最善を尽くす、そう試みる事は少なくとも可能である」は、フランソワ・コンスタンタンがビジネスパートナーのジャック・バルテルミー・ヴァシュロンに宛てた手紙にある言葉です。

ヴァシュロンコンスタンタンは1996年に時計業界の三大コングロマリットのひとつ、リシュモン傘下に入るまで、ヴァシュロン家・コンスタンタン家の子孫が経営を受け継いできました。

~時計業界の三大コングロマリット~

・リシュモン(ヴァシュロンコンスタンタン・カルティエ・ピアジェなど)
・スウォッチ(オメガ・ブレゲ・ブランパン・ロンジンなど)
・LVMH(ゼニス・ウブロ・タグホイヤー・ティファニーなど)

の三グループ。

ヴァシュロンコンスタンタンは、非常に古い歴史を持つため驚くほど古い個体も残っており、アンティーク腕時計が好評を得ています。
資産価値も高く、年月を経ても変わらぬ気品と風格が特徴です。

 

進化し続けるメゾン

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出典:https://www.vacheron-constantin.com/

ヴァシュロンコンスタンタンは1996年にリシュモングループ傘下に加わり、マーケティングや経営戦略が強化されました。
リシュモン入りを機に、ヴァシュロンコンスタンタンはさらなる進化を遂げます。
2004年には現在の本拠地、ジュネーヴのプラン=レ=ズゥアトに本社とアトリエを移転しました。

新たな社屋は、マルタ十字を半分に切った形の外観と、極めて明るくモダンな現代建築の内部が特徴です。
アトリエも兼ねた本社のほか、時計の谷ジュウ渓谷のル・ブラッシュにも2013年にアトリエを整備しました。

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アトリエ整備に注力した理由のひとつは、ジュネーブシールでしょう。
ジュネーブシールは、時計の品質に関する認証のひとつで、大きな影響力と信頼性をもっています。
1886年に設立され、ヴァシュロンコンスタンタンははやくも1901年に取得しています。

~ジュネーブシール~

ジュネーブシールとは、製造に関する場所と品質を保証するものです。
1886年に設立された、ジュネーブ時計検定局が認証を行っています。

1.場所に関する認定
ジュネーブ州(かつてのジュネーブ共和国)内で製造されたムーブメントを使用していること

2.品質に関する認定
ベースプレートとブリッジ・調整システム・輪列と宝石・形状部品のどれもが機械的・美的に優れていること

2012年にジュネーブシールが厳格化され、品質認定がムーブメントから個体全体へ広がりました。
ヴァシュロンコンスタンタンは新たな生産体制を整備・強化し、厳格化したジュネーブシールもクリアしています。
現存する最古の時計メゾンは、今日も時計業界の最先端に君臨し続けているのです。

 

ヴァシュロンコンスタンタンの魅力

ヴァシュロンコンスタンタンは、高い芸術性と確かな技術力のブランドです。
一目でヴァシュロンコンスタンタンとわかる「マルタ十字」のエンブレムの意味や、厳しい審美眼を持つファンたちを魅了する精緻な芸術性、高度な技術について解説します。

 

「マルタ十字」のシンボルマーク

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ヴァシュロンコンスタンタンのエンブレムは、マルタ十字です。
マルタ騎士団のシンボルでもあるマルタ十字は、くさび型を組み合わせた8つの角を持つ十字です。
マルタ十字の意匠にある8つの角は、騎士道における8つの美徳を表しています。

・忠誠心
・敬虔(けいけん)さ
・率直さ
・勇敢さ
・名誉
・死を恐れない
・弱者の庇護
・教会への敬意

ヴァシュロンコンスタンタンは、1880年にマルタ十字をエンブレムとして商標登録しました。
自社のムーブメントの部品がマルタ十字に似ていたことから、マルタ十字が採用されたと伝えられています。
もちろん、マルタ十字にまつわる8つの美徳も関係しているのでしょう。

 

芸術性の高いデザイン

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出典:https://www.vacheron-constantin.com/

メティエ・ダール(職人技の芸術)と呼ばれる、卓越した工芸技術に支えられた美術価値の高さも大きな特徴です。
ヴァシュロンコンスタンタンが誇る工芸芸術部門、「レ・キャビノティエ(屋根裏のアトリエ)」。
工房の最上階にあるアトリエで活躍する、高い教養と技術が約束された名手たちの仕事についてご紹介します。

 

①ギヨシェ彫り

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金属の表面に直線や曲線を彫刻し、幾何学模様などを掘り出す伝統技法です。
時計の文字盤に多く施されますが、高級メゾンでは分解しないと目にしないムーブメントにも彫りこみます。
ヴァシュロンコンスタンタンの職人によるギヨシェ彫りは、伝統技法をはるかに凌駕した彫刻技術で、繊細な風景や動植物などを金属プレートの上に生み出します。

 

②エナメル技法

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エナメル(仏語:エマイユ)は日本の七宝や琺瑯と同じ技術で、金属などの土台にガラス質の塗料を焼き付ける伝統工芸です。
3500年もの歴史があるとされ、様々な技法が工夫されてきました。時計ではダイヤルや装飾に多く用いられます。
ヴァシュロンコンスタンタンでおなじみの技法をいくつかご紹介します。

グラン・フー
(Grand Feu)

「偉大な炎」の意。1000度近い高温で何度も焼成を繰り返す。美しく、難易度が高い。

グリザイユ
(Grisaille)

黒など一色で塗った下地に、白の濃淡だけで描くモノクロームで、何度も焼成を繰り返し、白絵を削って微調整する。

シャンルヴェ
(Champlevé)

素地を掘り下げて、くぼんだ部分をエナメルで埋め、素地と同じ高さになるまで焼成・研磨を繰り返す。色ごとに薄い壁で仕切って描く。生地彫り七宝。

クロワゾネ
(cloisonné)

髪の毛よりも細い金線・銀線などで区切りながら描いた柄にエナメルを流し、焼成を繰り返す。有線七宝。

エナメルは高温で焼成を繰り返すためガラス質に割れやヒビが生じやすく、難易度の高い技法です。
幻といわれる手法も多く、様々なテクニックを組み合わせて一点ものを描き出すヴァシュロンコンスタンタンは、世界最高峰の技術を持つメゾンのひとつです。

 

③彫金

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エングレービングという細密版画に使用される手法で、ビュランというダイヤ製の細いノミで直接貴金属へ彫金を施します。
ミニアチュールやアラベスクなど、様々な紋様を掘り出していきます。
時計製作においては、エングレーバーと呼ばれる専門の職人が担当します。
ダイヤルやケース、ムーブメント、ローターなどに、1/10ミリ単位の細かな絵を手作業で彫る緻密な作業です。

 

④ジェムセッティング(石留め)

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様々なカットを施した宝石を時計の文字盤やベゼルにセットしていく技法も、抜きんでています。
インビジブルセッティング」と呼ばれる手法は大変高度で、宝石を留める地金が外からまったく見えません。

バゲットカットダイヤの平らな面に金属片が一切見えないため、ダイヤモンドの透明感がいっそう際立ちます。
インビジブルセッティングが行える職人は非常に少なく、大変貴重な技術です。

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出典:https://www.vacheron-constantin.com/

上記の技術を駆使し、ルーベンスの『アンギアーリの戦い』や、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』などの名画を模写したミニアチュールは、見る者を圧倒します。
ヴァシュロンコンスタンタンでは、卓越した工芸技巧を惜しみなくちりばめたビスポークが可能です。

ビスポークとは英語の「be-spoken」からできた言葉で、顧客と職人が対面で打ち合わせながら、顧客の望み通りの服や靴を完璧に作り上げていくオートクチュールです。

時計業界では19世紀に超高級時計や複雑機構のビスポークが人気を博しました。
ヴァシュロンコンスタンタンでは、世界に1本のビスポークを可能にする特殊部門を2006年に再開、メティエ・ダールの技術力は年々高まっています。

 

高度な時計製造技術

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出典::https://www.vacheron-constantin.com/jp/home.html

ヴァシュロンコンスタンタンは、非常に高度な時計製造技術で知られます。
1810年代には、2種類のメロディーを随意に奏でるミュージカルウォッチをリリースしています。
1839年には、優れた発明家である同社の機械技師ジョルジュ=オーギュスト・レショーが「パンタグラフ」を発明し、時計製造業界に革命をもたらしました。

パンタグラフは、さまざまな時計部品を同一に複写して製造できる技術で、品質・精度・信頼性の高い連続生産を可能にしました。
部品交換も可能になり、時計の寿命を延ばすことに貢献しています。ヴァシュロンコンスタンタンはコンプリケーション(複雑機構)を得意とするブランドとしても知られます。

クロノグラフトゥールビヨンミニッツ・リピーターパーペチュアルカレンダーなどの複雑機構、複数の複雑機構を搭載したグランドコンプリケーションが世に送り出されてきました。
さらに、ジュネーブシールを1901年に取得した、マニュファクチュールとしての地位も確立しています。

~マニュファクチュール~

マニュファクチュールは、時計の心臓部であるムーブメントから自社製造している時計ブランド。

2015年には、260周年を記念しトゥールビヨン、永久カレンダー、ムーンフェイズなど57もの複雑機構を搭載したタイムピースをリリースしています。

 

ヴァシュロンコンスタンタンを代表するコレクション

ヴァシュロンコンスタンタンを代表するコレクションをご紹介します。
特に、ブランドを代表するオーヴァーシーズ、フィフティーシックス、パトリモニー、トラディショナルについて詳しく解説していきます。

 

旅をテーマとしたラグスポ「オーヴァーシーズ」

オーヴァーシーズは、1996年リリースのヴァシュロンコンスタンタンを代表するラグジュアリースポーツウォッチです。
「旅のスピリッツ」を表現しており、初期モデルの裏蓋には帆船が彫られ、現在はシースルーバックに方位図をモチーフにしたゴールドローターが輝きます。

ハイレベルな防水性能・耐磁性能など、現代に求められる最新鋭のスペック、さらにベルトを簡単に交換できるインターチェンジャブル・システムも採用した、最先端ウォッチです。

 

■オーヴァーシーズ オートマティック 4500V/110A-B128

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ジュー渓谷の空と湖を切り取ったような、すがすがしいブルーのダイヤルに、すっきりとしたインデックスを組み合わせたスポーティーなデザインです。
さりげなくマルタ十字を模したインデックスにはスーパールミノバが使用され、暗闇で淡いブルーの光を放ちます。

ステンレススティール製のベゼルやインターチェンジャブルブレスレットにも、マルタ十字がデザインされています。
よりスポーティーなラバーストラップと、エレガントに決まるレザーストラップも付属した、爽やかなタイムピースです。

 

シーンを選ばない「フィフティーシックス」

フィフティーシックスは2018年にローンチされたモデルです。
フィフティーシックスの名は、1956年に発表された名機「Ref.6073」によるものです。

Ref.6073をベースに、伝統美のパトリモニーと革新的なオーヴァーシーズのメリットを併せ持った、中間にある立ち位置が特徴です。
オンオフいずれにも対応できる使い勝手の良さが高く評価されています。

 

フィフティーシックス オートマティック 4600E/000A-B487

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Ref.6073から着想を得た、レトロモダンな逸品です。
どこから眺めても「格好いい」。その一言に尽きます。
セクター(分割)表示文字盤にはレイルウェイ分目盛、計算され尽くしたフォントのアラビア数字とバーを組み合わせたインデックス、絶妙な太さの針。

ダイヤルは心をくすぐるような深みを持つブルーで、マルタ十字がこっそり隠されているステンレススティール製ラグ・ケースの硬質な輝きと、見事にマッチします。

 

現代的な意匠をもつ「パトリモニー」

パトリモニーは、ヴァシュロンコンスタンタンの伝統を今に受け継ぎつつ、現代的に洗練した正統派のドレスウォッチです。
1950年代に作られたモデルをベースとし、2004年に新しくリリースされました。

英語で「遺産」「継承」という意味を持つ名で、継承されてきたクラシカルかつ上品なデザインロジックを、現代の美意識でモダンに再解釈したモデルです。

 

■パトリモニー 85180/000G-9230

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静謐ささえ漂うシンプルな構図は、無駄なものをすべてそぎ落とした美しさです。
1950年代のデザインにインスパイアされたインデックスは文字盤の隆起にあわせて緩やかな曲線を描き、よく見るとマルタ十字を彷彿とさせます。

シースルーバックからのぞくムーブメントにはマルタ十字入りのローターが黄金に輝きます。
シンプルさを追求したドレスウォッチだからこそ、一生ものとして長く愛し続けられる上品な作品です。

 

古典を再現した「トラディショナル」

ヴァシュロンコンスタンタンは長い歴史のなかで、いくつもの名機を生み出してきました。
「トラディショナル」は特に1930年代~50年代の名機に焦点を当て、伝統を重んじつつ現代風な解釈のもと再現したコレクションです。
シンプルモダンなドレスウォッチのパトリモニーと異なる点は、ラインナップの豊富さです。

 

■トラディショナル 82172/000G-9383

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シンプルに洗練されたデザインのモデルです。
ホワイトゴールド製のケースは7.77mmと超薄型で、シースルーバックから見えるムーブメントやケース裏の細かなコインエッジが卓越した技術力を見せつけます。

ムーブメントはパワーリザーブ約65時間で、ジュネーブ・シール認定の手巻きCal.4400ASを搭載。
12時のみマルタ十字をイメージしてカットを入れたバーインデックスやレイルウェイ分目盛、シャープなカットを施したドルフィン針などクラシカルな品を感じさせます。

 

レ・キャビノティエから生み出さる最先端の芸術品

ジュネーヴの小さなアトリエから始まったヴァシュロンコンスタンタンの歴史は、270年に及ぼうとしています。
それぞれの専門分野を受け持つ、最高峰の技術者たちが手がける複雑機構や伝統技法は、日々進化し、磨かれ続けています。
伝統を重んじつつ、常に「最高の技術」に向けてさらなる高みを目指すメゾンは、世界最古にして最先端をゆく挑戦者で在り続けます。