高級腕時計には様々な側面がありますが、そのうちの一つが「資産価値」ではないでしょうか。
ここで言う資産価値もまた、意味合いは豊富です。
例えば「持ち運べる資産」などとも称されるように、価値が落ちづらく、再販しやすいという意味。
あるいは「家宝」「子々孫々に受け継げる」という意味。
さらには、購入時より価値が上がって、売却時に思わぬ金額が手に入ったなんて意味も。
とは言え、全ての「高級腕時計」が価値が全く落ちないかと言うと、そうではありません(もちろん高級機は非常によく作りこまれているので、末永く愛用することができる個体が多く、価値が落ちるといった言い回しはやや語弊があります。ただし再販のしやすさといった意味では、全ての高級時計の価値が落ちないわけではない、と言えます)。
では「価値の落ちない高級腕時計ブランド」とは、どのようなところが挙げられるのでしょうか。そのブランドには、どんな条件が揃っているのでしょうか。
この記事では、価値の落ちない高級腕時計ブランドについて徹底解説いたします!
価値の落ちない高級腕時計ブランド5選
ひとくちに高級腕時計と言っても、市場には膨大な数のブランドが存在しています。
その中でも、価値の落ちない高級腕時計ブランドを厳選し、まとめてみました!
パテックフィリップ
「価値の落ちない高級腕時計ブランド」において、満場一致で名前が挙がるのがパテックフィリップではないでしょうか。
パテックフィリップは後述するオーデマピゲ、ヴァシュロンコンスタンタンといった世界三大時計ブランドの一角を成しますが、同時に世界最高峰の呼び声を欲しいままにしております。
創業は1839年。当初は高級懐中時計の販売をメインに行っていましたが、後に高名な時計師ジャン・アドリアン・フィリップが経営に参画したことで、時計製造でも名を馳せていくこととなりました。その名声は世界各地にまで届いており、顧客にはイギリスのヴィクトリア女王,ローマ教皇ピプス9世,ロシアのチャイコフスキーにワーグナー,トルストイなどといった錚々たるメンツが並びます。
1932年には世界恐慌の影響もあり、スターン兄弟(ジャン・スターンとシャルル・スターン)に資本が売却され、経営権が移ります。もっとも、歴史と伝統に裏打ちされたパテックフィリップの高度な技術力や、工芸品のような美しさを備えたタイムピースへの情熱は受け継がれていき、パテックフィリップをパテックフィリップたらしめています。
現在のパテックフィリップもまた、しかり。
パテックフィリップはスイス時計では珍しい完全マニュファクチュール生産のもと、内外ともに美しくも完成された高級腕時計の数々を世に送り出しています。
※マニュファクチュールとは、自社一貫生産などとも称される時計メーカーの生産方式を指す用語です。対義語はエタブリスール。スイスの時計産業は伝統的に分業制が主流となっており、一つの企業内で設計・製造から販売までを行うという形態は珍しかったのです。とりわけムーブメントは専用サプライヤー(ETAが最も有名かもしれません)のエボーシュをベースとすることがほとんどでした。現在ではマニュファクチュールを称するブランドが増えてきましたが、パテックフィリップのようにケースやブレスレット、文字盤、そしてムーブメントを一貫して請け負うブランドというのはそう多くありません。
とりわけパーペチュアルカレンダーやミニッツリピーターなどといったコンプリケーション(複雑機構)の製造には一家言持っております。近年では加工技術の発達によって昔ほどコンプリケーション製造のハードルが下がったと言われることもありますが、パテックフィリップのそれは頭一つ抜きんでています。まず、美しいこと。コンプリケーションはパーツ点数が多く複雑な設計となるため、ともすればケースサイズが巨大化しがち。しかしながらパテックフィリップはいずれも常識的なサイズ感に収めるばかりか、薄型ムーブメントをベースにするなどして、きわめて上品でドレッシーな大きさを実現しているのです。ごちゃごちゃしがちな文字盤が端正にまとまっているのも、さすがパテックフィリップですね。
また、創業170周年の節目であった2009年には、独自の品質規格パテックフィリップシールを制定。精度・装飾等に厳格な基準を設け、これに則った最高峰のタイムピースをオーナーに届けております。
このように価値の落ちないにふさわしい深い歴史と高品質なタイムピースを強みに持つパテックフィリップですが、さらに特筆すべきは「永久修理」です。
永久修理は文字通り、自社で製造された個体の修理は、どんなに古いものであっても永久に受け付けてくれるというアフターケア体制です。これはあまり知られていませんが、機械式時計と言えど、各メーカーには「パーツ保有期間」があります。生産終了したモデルのパーツの保有期間をメーカーによって定めたもので、これを過ぎた個体はメーカー側は修理の責任を負いません。しかしながらパテックフィリップのような一部名門は「永久修理」としてパーツ保有期間を設けず、企業が続く限りずっと面倒を見てくれるというわけです。
余談ですが、かつて「パテックフィリップのオーナーは、真に(パテックフィリップを)所有しているのではなく次世代のために面倒を見ている」という宣伝文句がありました。永久修理に代表されるように、次世代に受け継げるというブランディングは、同社の資産価値を確かなものとしています。
※ただしパーツ保有期間があるからと言って、全てのブランドが「パーツ保有期間を過ぎたから絶対に修理・メンテナンスしない」というわけではありません。近年ではサスティナビリティの浸透やメーカーの中古市場の参入等もあり、修理の在り方は変わろうとしていることを付け加えておきます。
そんなパテックフィリップはラグジュアリー・スポーツウォッチラインのノーチラスやアクアノート、あるいは「丸形時計の規範」などとも称されるカラトラバ、前述したコンプリケーションなどと言った多彩なコレクション展開をバランス良く行っており、まだまだ世界最高峰の名声は他者に譲りそうにありません。
オーデマピゲ
次にご紹介する価値の落ちない高級腕時計ブランドは、オーデマピゲです。パテックフィリップと同様に世界三大時計に数え上げられており、また1875年の創業以来、一貫して買収を許さず創業者一族の経営を貫いてきた企業姿勢から、「経営者に愛される時計」などと称されることもあります。
深い歴史を有するブランドだけあり、時計製造技術も業界ピカイチ。1882年に世界初のグランドコンプリカシオン懐中時計を、1892年に世界初のミニッツリピーター搭載腕時計を開発する等、時計業界に与えてきたインパクトは絶大です。一方でただ伝統を踏襲するのみならず、革新的な機構や全く新しいコレクションを続々輩出するような姿勢でも知られています。
オーデマピゲのこの姿勢を最も象徴するのは、ロイヤルオークではないでしょうか。
ロイヤルオークはオーデマピゲが1972年にローンチした、ラグジュアリー・スポーツウォッチです。
ラグジュアリー・スポーツウォッチ、通称ラグスポ、現在時計業界のトレンドの一つとなっていますね。ラグジュアリー・スポーツウォッチにいまだ決まった定義はありませんが、ラグジュアリーメゾンが手掛ける薄型スポーツウォッチで、ケースとブレスレットが一体型となったフォルムを有するモデルを概ね指していると言えます。
このラグジュアリー・スポーツウォッチのパイオニアが、何を隠そうオーデマピゲ ロイヤルオークです。
1972年当時、オーデマピゲと言う雲上ブランドでは考えられなかったケース直径39mmのステンレススティール製スポーツウォッチで、かつ随所にエッジを効かせた意匠やビス留めされた八角形のベゼル等は、非常に型破りな高級腕時計として扱われました。当時はケース直径31mm~35mm程度の小径ラウンドケースが主流であったため、初代ロイヤルオークは「ジャンボ」の異名でも親しまれたと言います。
ロイヤルオークをデザインした鬼才ジェラルド・ジェンタは様々な名作を手掛け、自身の銘の入った腕時計も商品化していきますが、1970年代当時にこのデザインは非常に奇抜であったことでしょう。また、非常に高価格帯であったことも手伝って(なんせ、1970年代は機械式時計の斜陽の時代ですから)、発売当初は商業的に成功していたとは言えませんでした。
しかしながらその後、パテックフィリップ ノーチラス(同じくジェラルド・ジェンタのデザイン)やヴァシュロンコンスタンタンの222などに代表されるように、ラグジュアリーメゾンが続々と対抗馬を打ち出したこと。そして現在ではオーデマピゲのアイコンであり、カルト的な人気を誇っていることから見ても、ロイヤルオークの偉大さは明白と言えるでしょう。
さらに近年では、CODE11.59の存在もオーデマピゲの革新の姿勢として高名です。
2019年―ロイヤルオーク誕生から47年ぶりの新コレクションですが、1993年にロイヤルオーク オフショアがリリースされています―にローンチされたモデルで、一見するとベーシックなラウンドフォルムながら、随所にオーデマピゲらしい独創性があしらわれます。
なんと、ミドルケースがロイヤルオークを想起させる、八角形になっているのです!
ラグもバックケース側に溶接されず、さらにラグホールにこれまたロイヤルオークのようなビス留めがあしらわれていることから、ただのベーシック時計でないことがおわかり頂けるでしょう。
さらにサファイアクリスタルガラスが12時位置から6時位置にかけて湾曲し、かつ内側がドーム型となっていることから、光の加減によって波状の変化が見られます。このコストのかかる仕様をあえて採用する姿勢、さすがと言わざるを得ません。
ちなみにCODE11.59というコレクション名には意味があります。
CODEのCはChallenge the limits of craftsmanship
OはOwing the Brand’s legacy(歴史があるということ)
DはDaring to Follow Firm Convictions
EはEvolving
そして11.59は日付が変わる直前を示しています。
出典:https://www.audemarspiguet.com/
さらに直近では映画制作会社マーベルとコラボしたり、ロイヤルオーク50周年として特別なモデルや新開発ムーブメントを続々打ち出すなど、勢いは止まりません!
なお、オーデマピゲもまたパテックフィリップ同様、永久修理をアフターサービス体制として掲げます。
さらには2023年よりAP COVERAGE SERVICEをスタート。これは、2022年と2023年にオーデマピゲブティック、APハウス、正規販売店で購入された新品モデルを対象に、購入日から2年間「盗難」または「機能損傷」のリスクをカバーする追加サービスです。ご自身での事前登録が必要だったり、オーデマピゲが取り決めた条件が前提となったりしますが、保証が認められれば代替品提供や修理費負担を請け負ってくれるサービスとなっており、ユーザーにとっては大変喜ばしい限りですよね。
長い伝統と進化を止めない革新性、そして大規模なマニュファクチュールに裏打ちされた、「価値の落ちない高級腕時計ブランド」の代表がオーデマピゲなのです。
ヴァシュロンコンスタンタン
パテックフィリップ・オーデマピゲ同様に世界三大時計ブランドであり、かつ1755年の創業以来、一度も休業せず連綿と時計製造にいそしんできた屈指の老舗がヴァシュロンコンスタンタンです。
ヴァシュロンコンスタンタンに「レ・キャビノティエ」というるビスポークサービスがあるのですが、このキャビノティエのDNAを感じさせるブランドが同社です。
キャビノティエは18世、屋根裏部屋(キャビネット)を工房とし、時計製造に携わった時計職人らを指す用語です。キャビノティエは一種の畏敬を以て用いられており、時計職人の中でもとりわけ優れた技術やノウハウを有し、特別な顧客の注文に対応していた精鋭らがこのように呼ばれました。複雑機構はもちろん、美しい彫金・装飾技法を惜しみなく用いたキャビノティエの手掛ける至高のタイムピースは、現在のヴァシュロンコンスタンタンのコレクションにも息づきます。
とりわけ「美しさ」といった面では、随一です。
ヴァシュロンコンスタンタンは現代時計ブランドでは珍しく、クラシカルなテイストを感じさせるモデルがコレクションの中心になっています(スポーツウォッチが流行りのご時世にもかかわらず)。そのいずれもがヴァシュロンコンスタンタンらしい丁寧な仕上げと作りこまれた意匠によって実現される、さながら工芸品のように美しいタイムピース。一方でクラシカル要素とモダン要素を巧みに取り入れた独創的なデザインをも基調としており、ヴァシュロンコンスタンタンだからこそ打ち出せるラインナップとなっております。
もっとも、ヴァシュロンコンスタンタンが手掛けるスポーツウォッチもまた「至高」。前項でご紹介したラグジュアリー・スポーツウォッチの代表格の一つであるオーヴァーシーズは、ヴァシュロンコンスタンタンの高度な技術力と美が備わりながらも、スポーティーなデザインと堅牢な設計をも両立しています。
ちなみにオーヴァーシーズがリリースされたのは1996年と、他の三大時計ブランドのラグスポと比べると後発です。しかしながらその始祖は1977年誕生のRef.222に遡ることができます(ちなみに222のデザイナーはジェラルド・ジェンタではなく、ヨルグ・イゼック氏と言われています)。
その後、222から333、そしてフィディアスへと移行し、1996年に「エレガントなトラベルウォッチ」としてオーヴァーシーズの誕生に至りました。
ヴァシュロンコンスタンタンの象徴でもあるマルタ十字に範を取ったベゼルや大胆なトノーケース、そしてやはりマルタ十字を模したハーフマルテーゼクロスというモチーフが導入されたブレスレットは、老舗とは思えない奔放さと鮮烈な印象を私たちに植え付けます。
※マルタ十字はマルタ騎士団のシンボルマークでもありますが、ヴァシュロンコンスタンタンは機械式時計の香箱(主ゼンマイを格納する歯車)の、カバーに備わっていたパーツの形状からインスパイアされたとのことです。
また、シースルーバックからは「トラベルウォッチ」というアイデンティティを感じさせる、コンパスモチーフが備わった22Kゴールド製ローターをご鑑賞頂けるのもミソ(ちなみに現行は2016年から発売されておりますが、それより前のモデルはソリッドバックに帆船のエングレービングがあしらわれていました。個人的には、こちらのメダリオンも海を感じさせて好きです)。
なお、ハイメゾンのスポーツウォッチの中には「スポーツ」と言うにはやや堅牢性が低いモデルも存在しますが、オーヴァーシーズは150m防水が標準装備となっており、また耐磁性能も有しています。ただエレガントなだけではない、高い時計製造技術が伴ったハイブランドがヴァシュロンコンスタンタンというわけです。
さらに付け加えると、ヴァシュロンコンスタンタンもまた永久修理を掲げており、次世代に受け継げるブランドです。
ユニークながら時代に左右されない至高のタイムピースは、100年後も価値ある存在として生き続けていることでしょう。
ロレックス
詳細は後述しますが、「価値が落ちない」と言った時、「一過性ではない人気(需要)」を保てるかどうかはきわめて重要です。
そういった意味で、ロレックスは確かに価値の落ちない高級腕時計ブランドと言えるでしょう。
ご存知ロレックスは、世界で最も有名と言って良い時計ブランドです。
人気や知名度、ステータス性が申し分ないことは言わずもがな。実用時計の王者と称されるほどの完成されたプロダクト、そして時代を超えた普遍にして不変の優れたデザインを強みに、長らくファンを虜にしてきました。ちなみにロレックスは長らく、積極的に情報公開しない企業とも捉えられています。しかしながら熱烈なファンによって仕様や年代が体系立てられているという点でも、大変稀有なブランドと言えますね。
こういった絶大な人気と、ロレックス自身の確かな技術力に裏打ちされた高品質なプロダクトによって、長らく高い資産価値を維持してきました。
資産価値と人気は密接な関係がありますが、品質もまたきわめて重要です。なぜなら時計の価値の高さは、再販ができるという点が大きく作用しているためです。つまり中古であっても、活発に売買されるモデルは資産価値が落ちづらいということです。もしすぐに壊れてしまったり、メンテナンスできなかったりする個体であるとしたら、そもそも再販ができませんよね。また再販できたとしても、「経年で劣化が激しくなる」のであれば、中古へのニーズは上がらず、売買しやすいとは言えません(前述したパテックフィリップ等の貴重なコンプリケーションは修理が本国送りになる場合もあり、「メンテナンスしやすい」わけではありませんが、きわめて高い資産価値を有することはご存知の通りです)。
その点ロレックスは腕時計の中でも、非常に大規模な中古市場を長年形成してきました。これはひとえに、ロレックスの「人気」「品質」が下支えしていると言えます。
と言うのも、ロレックスは高度な技術力に裏打ちされた腕時計の実用性を、早い段階から確立してきたためです。例えば防水性。ロレックスは1926年に防水ケース「オイスター」で特許を取得しました。以来、このオイスターケースをベースに腕時計を製造しています。腕時計の防水性は、経年に負けない品質といった意味で、欠かせない利点です。防水性の弱いモデルは、どうしても内部機械や文字盤・針が腐食してしまうためです(もっとも文字盤や針の腐食は、ヴィンテージらしい味わいの一つですが)。もちろん製造当時のままの防水性を維持している個体はそう多くはなく、ロレックスであっても腐食が見受けられるオールドウォッチは多々流通しています。しかしながらメンテナンスによって実用できる個体がほとんど。さらに、ムーブメントの耐久性やメンテナンス性の高さも、ロレックスの長年の品質に欠かせない点ですね。
永久修理は掲げていませんが、人気ゆえに流通量が非常に豊富なことから修理ノウハウもよく出回っており、非常に売りやすく買いやすいブランドとなっております。ちなみに2022年、ロレックスは認定中古をスタートさせました。認定中古は簡単に言うと、ブランド側の厳格な基準のもとにお墨付きが与えられた中古時計の販売サービスです。ブランドが買い取った中古品を、ブランドの正規メンテナンスでケアした後、ブランドの値付けで売りに出される認定中古は、ユーザーにとっては大きな安心感に繋がりますよね。ロレックスが認定中古に参入した事実は、同社の今後のアフターサービスの充実にも期待したくなるところ。ロレックスの中古市場の、いっそうの充実に繋がるとも捉えられるのではないでしょうか。
もっとも近年のロレックスは「価値が落ちない」どころか、実勢相場が右肩上がりに上昇し、イニシャルコストよりも高い金額で売却できたなんて話を耳にします。例えば6年前に60万円台で購入したエクスプローラーI 214270が、2023年に100万円で売れた。あるいは円高の時代に100万円で購入したデイトナ 116520が300万円で売れた!などといった話題です。
もちろん全てのロレックスがイニシャルコストを遥かに超えるような金額で売却できるわけではありませんが、円安の影響もあり、相場全体が上昇している今、売却時に思わぬ査定額が出たといったことは珍しくないでしょう。
このロレックスの価格高騰は「バブル」と称されることもあり、確かにいつまで続くかは誰にもわかりません。しかしながら、繰り返し述べている通り、ロレックスは昔ながらに人気を高品質を誇ってきたブランド。そのため「次世代に続く資産価値」といった面では高いことに疑いようはなく、今後も価値の落ちない高級腕時計の代表的存在であり続けるでしょう。
オメガ
ロレックスと並んで、高い知名度を誇るオメガ。腕時計ブランドについてあまり詳しくない方でもオメガの名前はご存知という方も少なくないでしょう。
この誰からも愛される人気も素晴らしいですが、「技術革新」というフレーズこそが、オメガをよく象徴するように感じます。
オメガの歴史は1848年から始まります。
創業当初は懐中時計の組み立て工房でしたが、後に時計メーカーへと転換。その際、高精度ながら低価格帯での供給を可能としたムーブメントを、「究極」という意味を混めてギリシャ語のΩ(オメガ)と名付け、後に社名へとなっていきました。
20世紀には精度コンクールや計時を始めとした「技術」で名を馳せていきます。ちなみに時計の防水技術で先鞭をつけたのはロレックスと言われており、確かに1926年に同社が発表したオイスターケースは後の腕時計の一つの規範となります。しかしながらオメガは1932年、丸形時計よりも防水を保つことが難しいとされる角型の防水時計をリリースしており、現代腕時計の礎を確立させた立役者の一人です。
さらに1957年には堅牢でコンパクトな手巻きクロノグラフ「スピードマスター プロフェッショナル」をリリース。後にNASAの公式装備品として宇宙開発に貢献したことから、ムーンウォッチの称号を獲得し、オメガと宇宙の繋がりを世間に植え付けていきました。
現代においても、この技術革新は歩を止めていません。
その代表格が、コーアクシャル脱進機とマスタークロノメーターでしょう。
脱進機は、機械式時計の駆動力となるゼンマイがほどける力を各歯車に伝え、かつ制御する心臓のようなパーツです。絶え間なく運動することで精度を維持しているため、摩耗や劣化は避けられません。
しかしながらオメガは1999年、劇的に摩擦を低減したコーアクシャル脱進機を発表(ちなみにコーアクシャルの発明自体は時計師ジョージ・ダニエルズによるものです)。さらに2013年には、このコーアクシャル脱進機に15,000ガウスという驚くべき高耐磁性能を搭載させたマスターコーアクシャルムーブメントを発表し、時計の実用性に革命を起こしました。
現在、オメガはコーアクシャル脱進機搭載モデルを中心に、スイス連邦軽量・認定局(METAS)と共同設立したマスタークロノメーターを認定させています。この規格は15,000ガウスの耐磁性能を始め、非常に厳格な基準と検査項目が設定されており、業界トップクラスです。
これを「標準装備」としてしまうところに、オメガの革新と技術への情熱が垣間見える思いですね。
こういった技術革新は高品質な時計を製造するのみならず、オメガのブランディングにも大きく寄与しています。オメガが「上質な高級腕時計の担い手」という事実は多くのユーザーが知ることとなり、結果として「末永く使いたい」「日常でガンガン使いたい」といった層から「オメガに惚れ込んでいる」層までを取り込み、確かな人気に繋がっていっているのです。
繰り返しになりますが、「高品質」と「人気」は価値の落ちない高級腕時計を語るうえできわめて重要です。この二つを完璧に併せ持つオメガもまたロレックス同様、大規模な中古市場を確立し、活発な売買が行われます。
近年ではオメガもまた一部モデルで品薄が続き、定価を大きく上回るプレミア価格を記録することも。これからもオメガ人気はどんどん高まっていくことは必至ですので、欲しいモデルがある方は早めに買っておくのが良いでしょう。
価値の落ちない高級腕時計ブランドの条件とは?
高級腕時計ブランドと一口に言っても、そのブランド理念や製品の特徴、ターゲット層はまちまちです。それぞれのブランドで「色」があります。
とは言え、「価値の落ちない」というトピックに絞った時、大まかにわけて3つの共通点を見出すことができます。
それぞれをご紹介いたします。
末永く愛用できる
どれだけ人気があっても、どれだけ瀟洒な意匠をしていても、やはり腕時計として長く使っていけない個体は再販しづらく、「価値が落ちない」とは言い切れません。
腕時計を長く使おうと思った時、「メンテナンス性」は特に重要です。腕時計のムーブメントは、オーバーホールをすることで末永く使い続けていくことができますが、残念ながら全ての腕時計が修理されるわけではありません。例えばカジュアルウォッチの場合、パーツに安価な素材を用いることで価格を抑えています。それらを交換して長く使うよりも、使い捨てた方が安い。あるいは修理ノウハウが出回っていない等で、修理されないまま廃棄されてしまう腕時計があるのです。
一方で高級腕時計は「次世代に受け継ぐ」ことを前提としているものが多く、メンテナンス性も考慮されていますまた、永久修理のように、ブランド自身が長く使うためのメンテナンス体制をしっかり築き上げているのも、高級腕時計ブランドならではですね。
こういった長く使えるかどうかによって中古の個体への人気が左右され、売買しやすいブランド・モデルは価値を落とさずに維持し続けていくのです。
高いブランド力
出典:https://content.rolex.com/
高いブランド力もまた、価値の落ちない高級腕時計にとって欠かせない要素です。
もっともブランド力と言っても、様々な議論があろうかと思います。
しかしながら高級腕時計のブランド力と言った時、「憧れられる存在」であることや「所有欲をくすぐる価値」「ステータス」が重要になってきますね。こういったブランド力が人気に繋がり、「ある程度の価格を出してでも欲しい」といったマインドに繋がります。
人気が高まれば、当然業者も「高くても仕入れる」こととなります。業者仕入れはオークションや業者間市場からも行われますが、個人買取は大切なチャネル。個人買取での仕入れを強化するため買取価格を上げ、これに追随する業者が増えることで、実勢相場も上昇していく…ブランド力の高い高級腕時計はえてしてこの構図を描きやすく、価値が落ちないどころか、高まっていくこととなります。
中古市場が確立されている
「売る場所」がなくては、どんなに素晴らしい高級腕時計であっても再販はしづらく、一般的な「価値の落ちない高級腕時計」とは言えません。繰り返しになりますが中古市場が確立され、売買が活発なブランド・モデルは価値が落ちづらく、今後も安定した高値を維持する傾向にあります。
ちなみにこの中古市場、近年ではブランド問わず、拡大が続いています。これまで二次流通とは一線を画していたメーカーが参入する。あるいは反対に法人ではなく消費者同士のCtoCが活発化しており、今後の動向に要注目です!
まとめ
価値の落ちない高級腕時計ブランドと、その条件についてご紹介いたしました!
もちろん、本稿でご紹介しているブランド以外でも、価値の落ちない名門はまだまだたくさん。枚挙にいとまがありません。
今後もOWLLARでは、価値の落ちない高級腕時計をふるってご紹介していきますので、乞ご期待!
この記事を監修してくれた時計博士
Endo Youkoh
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC 上級ウォッチコーディネーター取得
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 銀座本店 販売スタッフ
1984年生まれ 神奈川県出身 時計業界2017年より
デザイン系の短大を卒業後、23歳で大手セレクトショップに入社。 主にレディースの服飾雑貨の責任者として、店頭接客・MD・VMD業務に携わる。入社10年目を機に更なるステップアップを目指し、高級時計店への転職を決意。2017年にGINZA RASIN入社。
人と話すのが好きで、スーパーポジティブな私は、現在お気に入りのIWC メカニカルフリーガークロノと共に店舗にて販売業務に従事。アパレル業界での経験を生かし、多角的な視点で記事監修を行っている。