腕時計業界でも、例年行われる各社の新作発表は待望のビッグイベント!
今年も心踊らされているファンは多いのではないでしょうか。新型コロナウイルスに伴う規制の、社会への影響が各国で大幅に低減されてきたこともあり、2023年は各社がコロナ以前のような―いや、それを凌ぐような―多彩かつ鮮烈な新作腕時計を公開しました。
この記事では、そんな2023年新作腕時計の中で、特に注目したいモデル5本を厳選してみました!
ロレックス デイトナ ル・マン24時間レース100周年モデル
出典:https://www.rolex.com/ja
スペック
素材:ホワイトゴールド
ケースサイズ:直径40㎜
文字盤色:ブライトブラック
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.4132
実勢相場:要問合せ
最初にご紹介するのは、2023年6月10日に突如として発表された新作デイトナ Ref.126529LNです!
「突如」と表現したのには、理由があります。と言うのも、ロレックスは例年、春先に行われる新作見本市―Watches & Wonders Geneve―で新作発表を一挙に行っていたためです。2022年11月、ゲリラ的に発表された新作ディープシー チャレンジなどの前例はありますが、基本的には春先に一挙公開するのが通例でした。
しかしながら2023年6月に、新しいデイトナが打ち出されるに至ります。
もっとも、この新作デイトナがル・マン24時間レース100周年モデルであるためです。同レースの2023年の開催に合わせて発表された形です。
ル・マン24時間レースはその名の通り、24時間という長時間および長距離を走行する耐久レースです。デイトナ24時間レースおよびスパ・フランコルシャン24時間レースと並んで世界三大耐久レースに数え上げられます。ちなみに世界三大レースでもあります。
フランス ル・マン近郊のサルト・サーキットで開催される当レースは、1923年が初開催と非常に深い歴史を持ち、すなわち今年で100周年!そこで、当レースの公式計時を務める(ついでに言うと、デイトナ24時間レースでも)ロレックスが、記念モデルをリリースしました。余談ですが、ル・マン24時間レースの優勝者には特別なデイトナが贈られます。
出典:https://www.rolex.com/ja
では、いったいどんな特別なモデルがリリースされたのでしょうか?
2023年にデイトナはフルモデルチェンジしており、ベース自体は変わりません。しかしながら随所に「特別感」が備わっており、ロレックスファン(特にオールドロレックスファン!)にも、モータースポーツファンにも堪らない仕様となっております。
特徴は大まかに分けて以下の三つです。
「新しくも、往年のディテールが復刻されたデザイン」
「特別モデルらしいディテール」
「シースルーバックから覗く新ムーブメントCal.4132(4131ではなく)」
まずデザインについてですが、デイトナらしい洗練された外装にセラクロムベゼルが搭載されていることが見て取れるでしょう。デイトナ人気を押し上げるデザインコードですよね。クロノグラフ由来のレーシーな顔立ちを持つ一方で優美なフォルムや、ねじ込み式リューズにプッシュボタンが搭載されていることも、お馴染みですね(モデルチェンジによって変わっていることもありますが、ロレックスは基本的に伝統的なデザインコードを大切にしつつ、プロダクトを進化させていくブランドです)。
出典:https://www.rolex.com/ja
しかしながら、実はケース・ブレスレットの素材はホワイトゴールドです。セラクロムベゼルが搭載されるデイトナはステンレススティール、プラチナ、ゴールド×オイスターフレックス搭載モデルに限られていることから、当新作はデイトナにとって「特別なデザイン」であることがわかります。見た目は華美すぎずベーシック、しかしながら身に着けるとずっしりとした重量感を楽しめるホワイトゴールドは、装飾品として人気のカラーゴールドですね。
ル・マン24時間レースの節目の年への記念碑としての意味を感じさせる、タキメータースケールの「100」の赤が眩しいです(そして、やはりデイトナと赤のマッチングは素晴らしい!)。
同時に、サンレイ仕上げのブライトブラック文字盤に浮かぶホワイトのインダイアルは「パンダ」として、ロレックスに限らず高い人気を誇る仕様ですが、さらに新作デイトナでは、なんと往年の「エキゾチックダイアル」で見受けられたデザインが添えられているのです!
エキゾチックダイアルとは、1960年代初頭から1970年代頃まで製造されていたデイトナのバリエーションモデルです。まだ手巻きだった頃のデイトナ(1988年以降、自動巻きへ)は、現在稀少性の高さからほとんど全てのモデルが驚くべきプレミア価格となっておりますが、その中でも目立って高額売買されているのがエキゾチックダイアルです。なお、俳優であり、映画監督であり、実業家であり、そしてレーサーでもあったポール・ニューマンが愛したデイトナがエキゾチックダイアルであったことから、ポール・ニューマンダイアルとも親しまれています。なお、実際にポール・ニューマンが身に着けていた個体 Ref.6239が2017年10月26日のフィリップス オークションに出品され、当時としては腕時計最高落札額となる約20.3億円で競り落とされました。
一般的な手巻きデイトナはワンカラ―文字盤にバーインデックスの組み合わせとなりますが、エキゾチックダイアルでは「パンダ」であることはもちろん、文字盤外周もベース文字盤カラーと反転しています。この様がエキゾチックということが名前の由来のようです。この外周の部分は段差が設けられていることも大きな特徴です。さらにミニッツトラックが赤く彩られていたことから、「赤巻き」とも呼ばれることがあります。
さらにインダイアルのスクエアマーカーがエキゾチックダイアルの大きな特徴なのですが、このインダイアル部分が2023年新作デイトナで復刻しているのです!
出典:https://www.phillips.com/detail/ROLEX/NY080117/8
エキゾチックダイアルは現在の人気とは反し、かつては多く流通していませんでした。製造数自体が少ないことに加えて、別の文字盤に交換されてしまったためです。
こういった流通量の少なさからエキゾチックダイアルへの渇望は年々増しており、現行で復刻したことに歓喜するファンは少なくないでしょう。
さらに、ル・マン24時間レースをインスパイアして、9時位置が24時間積算計になっているのもミソ!
現行デイトナでは、この位置には12時間積算計が搭載されます。しかしながら歯車の回転をあえて減速させ、24時間積算計にしたところが、ロレックスの憎い演出です。
出典:https://www.rolex.com/ja
これに伴いムーブメントは、現行モデルのCal.4131ではなくCal.4132となっております。
もっともスペックは大きく変わらず、高精度クロノメーター認定かつ約72時間パワーリザーブは健在です。また、耐磁性に優れたブルーパラクロム・ヒゲゼンマイに高効率なクロナジー・エスケープメントや独自の耐震装置パラフレックス・ショックアブソーバー、そして最適化されたボールベアリングなどといった、ロレックスご自慢の最新テクノロジーも標準装備となっております。
さらに2023年以降、プラチナデイトナ等の一部モデルに採用されているシースルーバックが新作モデルにも追加!美しいコート・ド・ジュネーブ装飾の受け板やゴールド製のローターを楽しめることでしょう。
惜しむらくは、他のデイトナ同様、なかなか実機を拝む機会がないであろうこと。
近年、デイトナは世界的に凄まじい人気を博しており、一方で正規店では品薄続きであるため、レギュラーモデルであっても入手困難といった状況です。今回の特別モデルに限定品の言及はありませんでしたが、恐らく非常に稀少な個体となるであろうことは容易に想像できます。
また、流通後の実勢相場も気になるところ。2023年の新作発表はいったん落ち着いた模様ですが、まだまだ市場は賑わっていくことでしょう。
IWC インヂュニア オートマティック40
出典:https://www.iwc.com/jp
スペック
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径40㎜
文字盤色:ブラック・シルバー・グリーン
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.32111
実勢相場:1,567,500円
次にご紹介するのは、IWCの新しいインヂュニアです!これまた、オールドウォッチ―あるいはオールドインター―愛好家には堪らない逸品ではないでしょうか。
IWCというとポルトギーゼやパイロットウォッチが印象的かもしれませんが、インヂュニアもまたロングセラーとして同社の歴史に欠かせない存在です。インヂュニアは1955年に誕生した耐磁時計で、もともとはIWCの人気パイロットウォッチ「マークシリーズ」をもとに、意志や放射線技師などといった特殊なエンジニアに向けて開発されたというアイデンティティを持ちます。なお、インヂュニアはドイツ語・フランス語でエンジニアを意味しております。
そんなインヂュニア、初代モデルはベーシックなデザインだったのですが、1976年にデザインが刷新。インヂュニアSL Ref.1832が誕生します。
2023年新作モデルは、このインヂュニアSLを復刻したことで大きな話題となりました。
なぜ、大きな話題となっているのか?
もちろんインヂュニアSLの出来栄えが素晴らしいということもありますが(実際、インヂュニアはその後も何度かのモデルチェンジを繰り返していきますが、2017年頃までインヂュニアSLを彷彿とさせるスポーティーな意匠が受け継がれていきます)、かの有名なジェラルド・ジェンタがデザインを手掛けたということも影響しているでしょう。
ジェラルド・ジェンタは、数々の名作時計を手掛けたデザイナーです。とりわけオーデマピゲ ロイヤルオークやパテックフィリップ ノーチラスに代表される「ラグジュアリー・スポーツウォッチ」のデザインを確立したことで知られていますね。
実はインヂュニアSLも、このジェラルド・ジェンタのデザインです。もっとも前述したラグジュアリー・スポーツウォッチとは異なり、インヂュニアSLはケース直径40mm×厚さ12.5mmと、非常にスポーティーで精悍な意匠を特徴としていました(ラグジュアリー・スポーツウォッチに決まった定義はありませんが、一般的には薄型でケースとブレスレットが一体型となったデザインコードを指します)。
この無骨さがインヂュニアSLの素晴らしい点なのですが、当時は今ほどの熱狂はなかったか、製造数はそう多くありません。ちなみにインヂュニアは2001年に一度生産終了。さらに2017年以降は初代モデルのようなシンプルデザインへと移行しています。
しかしながらインヂュニアSLへの根強いファンは世界的に少なくなく、リバイバルを望む声はラグジュアリー・スポーツウォッチ人気とともに年々高まっていきました。
そんなファンの声に応えてくれたか、2023年にIWCはインヂュニアコレクションを一新。初代インヂュニアSL Ref.1832からインスピレーションを受け、新作モデルをステンレススティールから計3種発売しました。
出典:https://www.iwc.com/jp
新作モデルはインヂュニアSLのケース・ブレスレットが一体型となったフォルムやH形リンク、そしてアイコニックなベゼルの窪みが踏襲されています。一方で2013年のモデルチェンジで見られたリューズガードを改めて搭載。ただの復刻ではなく、モダンなテイストを巧みに付加するのはさすがIWCです。ちなみにベゼルの窪みも、オリジナルでは位置が個体によってまちまちでしたが、新作ではビス留めのため定位置となりました。
また、Ref.1832のグリッドパターンがあしらわれた文字盤やアイコニックな針、バーインデックスもファン待望のディテールですが、これまたIWC流モダナイズによって洗練された印象をまといます。
出典:https://www.iwc.com/jp
現代的な仕上げ技術が相まって、高級機としての風格は十二分ですね。
ちなみにIWCの耐磁時計ではお馴染みであった軟鉄製インナーケースが復活しているのですが、ケース厚は10.7mmと、オリジナルよりも薄型化されていることも特筆すべき点です。IWCはエルゴノミクス(人間工学)を考慮したうえで新作インヂュニアを製造したと語っており、この薄さも快適な装着感への配慮の一つなのでしょう。さらにインヂュニアのために新しく設計されたミドルリンク・ アタッチメントによって、いっそう手首にフィットする仕様です。
出典:https://www.iwc.com/jp
搭載するムーブメントは、パイロットウォッチやアクアタイマーにも搭載されている自動巻きCal.32111です。高い精度や巻き上げ効率、そして耐久性に優れた名機であることは言わずもがな。約120時間の超ロングパワーリザーブを誇ります。
バリエーションはステンレススティールモデルからブラック・シルバー・グリーンがラインナップされました。いずれも定価は1,567,500円です。
出典:https://www.iwc.com/jp
また、グレー文字盤を備えたチタン製モデルも登場しています。こちらは定価1,958,000円です。
往年のヴィンテージをまといつつ、現代的にアップデートされた至高のスポーツウォッチとなっております。
ブレゲ タイプ20/タイプXX
出典:https://www.breguet.com/breguet/typexx/en/
スペック
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径42㎜
文字盤色:ブラック
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.7281/Cal.728
実勢相場:2,585,000円(いずれも)
「時計の歴史を200年早めた」とも称される、天才時計師アブラアム=ルイ・ブレゲの系譜を引くブレゲ。パーペチュアルカレンダーやトゥールビヨンなどといった複雑機構からコインエッジ、あるいはクル・ド・パリなどの装飾まで、ブレゲが発明・改良した技法は後の時計に大きな影響を与えることとなりました。
とは言え連綿と工房が続いていたわけではありません。天才時計師の没後、偉大な遺産や資料などは受け継がれていたようですが、現在のような高級腕時計ブランドとして再びよく知られるようになったのは1999年にスウォッチグループ傘下となって以降です。
そのため、2023年にブレゲがローンチした新作タイプ20またはタイプXX(いずれもトゥエンティ。違いは後述)は、天才時計師の華やかな歴史を体現する「クラシック」や「トラディション」、あるいは「クイーン・オブ・ネイプルズ」とは、また違ったイメージを抱くかもしれません。
とは言え、その範はブレゲの歴史にあり。と言うのも、1950年代にブレゲがフランス空軍のために製造したパイロットウォッチタイプXXにオリジナルを遡れるのです。
ブレゲの歴史に戻りますが、アブラアム=ルイ・ブレゲのひ孫であり5代目ルイ=シャルル・ブレゲは、20世紀初頭の航空産業の黎明を担った一人であり、1909年にルイ・ブレゲ航空機会社を設立していました。同社の航空技術は第一次世界大戦でも用いられたことなどから、当時はイギリス出身の時計師エドワード・ブラウンに譲られていたブレゲの時計製造部門も「空」と結びつき、航空計器製造で一家言持つこととなりました。
こういった背景もあり、1950年代にフランス空軍が自国で製造されたパイロットウォッチを欲した時、ブレゲがサプライヤーの一つとして選ばれます。いくつかのプロトタイプが製造されますが、実際に納入されたのは1955年~1959年。以降、軍用に留まらず、民生市場でもその名を馳せていくこととなりました。
なお、今でこそ「タイプXX」と聞くとブレゲのパイロットウォッチが想起されますが、これはもともとはフランス空軍で用いられていたミルスペック(軍規格)でのコードネームです。その後登場したタイプXXIしかり。しかしながらブレゲがタイプXXに制式採用され、かつあまりにも有名なコレクションとなったことから、現在ではブレゲのイメージが浸透しました。
もっともタイプXXは「アエロナバル」の通称でも知られていますね。これは、フランス海軍航空隊の通称です。1960年からフランス海軍に納入されるようになった個体からちなんでおり、現在では「タイプXX アエロナバル」などと表記されます。
出典:https://www.breguet.com/breguet/typexx/en/
この歴史的パイロットウォッチ、長い歴史の中で様々なバリエーションが展開されてきました。
最も直近では、1995年にリリースされた第三世代のタイプXX アエロナバル Ref.3800系です。ちなみに第三世代以降は民生市場向けらしく、同コレクション初の自動巻きモデルとなっております(それ以前も民間向けモデルは製造されていましたが、市販向けといった意味では第三世代以降からでしょう)。後にアエロナバルにデイトを搭載した第五四世代「タイプXX トランスアトランティック」としてRef.3820系もリリース。さらに2004年には、第五世代「タイプXXI」Ref.3810が登場しました。ちなみにタイプXXIも特段ブレゲの造語ではなくフランス空軍のミルスペックです。タイプXXIはトランスアトランティックを大型化し、いっそう計器然とした顔立ちを特徴とします(さらに2010年にはタイプXXIIもリリース)。
クラシカルな印象の強いブレゲの中でタイプXXを始めとするパイロットウォッチは異色を放ちながらも、熱狂的なファンを生み出し続けていました。しかしながらトランスアトランティック・アエロナバルともに、数年前に生産終了。カタログから姿を消すこととなりました。
そうして満を持してカムバックしたのが、本稿でご紹介している2023年新作タイプ20及びタイプXXです。
出典:https://www.breguet.com/breguet/typexx/en/
タイプ20はRef.2057、タイプXXはRef.2067のリファレンスが振られましたが、スペックに大きな違いはありません。ケース直径もともに42mmです。オリジナルモデル同様にフライバッククロノグラフが搭載されており、時間計測中であってもリセットボタンを押下することで、クロノグラフ針がゼロ位置にフライバックし、再び計測を開始できる仕様となっております。現代的に自動巻き機構となっていることは付け加えておきます。
ただし、よくよく調べてみると、タイプ20とタイプXXには明確な違いがあることがわかります。
と言うのも、前者は1955年~1959年にフランス空軍へ納入された1,100本限定生産のモデルから、後者は1957年に発売された、民間用パイロットウォッチ タイプXXの系譜を引くRef.2988から範が取られているのです。
出典:https://www.breguet.com/breguet/typexx/en/
タイプ20はスケールのないシンプルな回転ベゼルが搭載されており、12時位置に夜光が塗布された三角のみが見受けられます。リューズのポワル(梨)型がアイコニックですね。これまたオリジナルを踏襲した意匠です。
計器然としながらも優れた視認性を発揮するブラック文字盤にはアラビア数字が基調となっており、ペンシル型の針と併せてたっぷりの夜光があしらわれました。なお、3時位置の30分積算計―大きく強調されたビッグアイ―と9時位置のスモールセコンドのツーカウンター式となっており、ヴィンテージらしい良い雰囲気です。なお、オリジナルはノンデイトですが、現代機らしくデイト搭載となっております。
出典:https://www.breguet.com/breguet/typexx/en/
もう一方の民間向けパイロットウォッチに範を取ったタイプXX Ref.2067では、「アエロナバル(デイトが付いているのでトランスアトランティックですが)と言えばコレ!」なお馴染みの回転ベゼルが搭載されました。とは言え、第三世代以降のモデルと比べるとベゼルが細くなっているように見受けられ、オールドウォッチにまま見られる「上品さ」がより伝わります。夜光がたっぷり塗布されているのは前者に同じくですが、ヴィンテージ風にアイボリーがかっているのが憎い演出ですね。
なお、Ref.2067はスリーカウンターとなっており、3時位置に15分積算系のビッグアイ、6時位置に12時間積算計、9時位置にスモールセコンドがあしらわれます。15分積算計は3分後とに夜光で強調されており、複雑なデザインながら端正さも忘れていないのはさすがブレゲです。アルファ針はオリジナルとは異なるようですが、好きな方には堪りませんね。
出典:https://www.breguet.com/breguet/typexx/en/
タイプ20・タイプXXいずれもブレゲらしい丁寧なツヤ消し・ポリッシュ仕上げのコンビネーションが宣材画像からも見受けられ、高級パイロットウォッチとしての風格は十二分ですね。ただしオリジナルのDNAを尊重してか、ケースサイドのコインエッジ装飾はなくなったようです。
レザーストラップがいかにもクラシカルですが、NATOストラップも付属しており、工具不要で交換可能とのこと!アクティブに使いたいユーザーにとっては朗報ですね!ちなみに防水性は100mです。
出典:https://www.breguet.com/breguet/typexx/en/
さらに、新型ムーブメントが搭載されていることも、本作の話題に欠かせません!
タイプ20にはCal.7281が、タイプXXにはCal.728が搭載されていますが、前述の通りフライバッククロノグラフかつ36,000振動/時のハイビート設計を有しながらもパワーリザーブ約60時間を実現。また、シリコン製ヒゲゼンマイやガンギ車を採用することで、パイロットウォッチに欠かせない耐磁性や耐衝撃性にも配慮されました。
シースルーバックからブレゲらしい美しい仕上げ・装飾が施されたムーブメント、そしてブラックDLC処理によって精悍なイメージとなったローターを鑑賞頂けます。
個人的にブレゲはとても敬愛するブランドです。中でもベーシックな立ち位置ながら歴史を存分に楽しめるタイプXXを愛してやまなかったのですが、2018年に生産終了と知った時は軽くないショックを受けたものです。しかしながら生産終了は、この新型タイプ20/タイプXXまでの助走だったと思えば、むしろこの数年間のブレゲの企業姿勢に、さらに愛が深まるのでした。
オメガ スピードマスター スーパーレーシング
出典:https://www.omegawatches.jp/
スペック
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径44.25mm
文字盤色:ブラック
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.9920
実勢相場:1,562,000円
ロレックス同様、高度な技術力と優れたデザイン性に裏打ちされ、時計業界を牽引するオメガ。スピードマスターやシーマスターに代表されるメンズコレクションはもちろん、レディースも豊富にラインナップするブランドでもあり、老若男女、万人に愛されています。
そんなオメガは前項でご紹介したブレゲ、あるいはハリーウィンストンやブランパンなどとともにスウォッチグループに所属しています。そのため他社も集まる大規模見本市には現在では参加しておらず、自社で独自に新作発表を行っています。
2023年も1月、先駆けて新しいスピードマスターを公開しました。とは言え、ただ単にデザインが新しくなった等ではありません。この新作スピードマスター スーパーレーシング、オメガが新開発したスピレートシステムを搭載しているのです。そう、まさに時計業界を揺るがす、全く新しい「開発」です。
出典:https://www.omegawatches.jp/
このスピレートシステム、シリコン製ヒゲゼンマイを再設計することで、超精密な精度調整を実現した新機構です。この調整によって、新作スピードマスター スーパーレーシングは、なんと日差0~±2秒というきわめて高精度な機械式時計となりました(一般的に、機械式時計の精度は-10秒~+20秒程度なら許容とされています)。
※機械式時計はオーバーホールせずとも、ヒゲゼンマイに何等かの機構を備えることで精度調整を行います。現在、精度調整の手法は大まかに分けて緩急針でヒゲゼンマイの有効長を変える方式か、フリースプラング式です。詳細は後述します。
もう少し詳しく解説すると、「ヒゲゼンマイ」を画期的にした機構とも言えます。
ヒゲゼンマイとはテンプを構成するパーツで、時計の心臓部です。ここが規則正しく伸縮運動することでゼンマイのほどける速度が制御され、正確な時刻運針へと繋がっていきます。心臓部であるがゆえに、外乱を受けると時計の精度を著しく損ねてしまうこともあります。例えば「磁気」や「衝撃」などがこれに当たります。そこで近年、このヒゲゼンマイにシリコンを用いる動きが各社で見受けられます。シリコンは軽量であることに加えて耐磁性や耐衝撃性、耐摩耗性に優れた素材です。温度変化があっても、安定した精度を維持できるというメリットもありますね。
一方でシリコンは割れやすいという側面も持ちます。そのためシリコン製ヒゲゼンマイの精度調整は緩急針ではなく、フリースプラング式が用いられます。これはテンプのテンワに設けられた補正ネジを回し、テンワの慣性モーメントを変える調整方式。緩急針に比べると調整に技術や特殊工具が必要となりますが、衝撃に強く微調整が可能とあって、ハイメゾンのスポーツウォッチでは主流となりつつあります。
出典:https://www.omegawatches.jp/
しかしながらオメガは新開発スピレートシステムで、特殊な偏心チューナーによってシリコンヒゲゼンマイに直接触れ、剛性を調整。シリコンヒゲゼンマイをいじるという画期的な手法を採るのみならず、0.1秒単位の精密な調整を実現しているのです。さすが革新の道を歩み続けてきたオメガの仕事です。
この微調整システムによってオメガ スピードマスター スーパーレーシングは、前述の通り日差0~±2秒の正確性を至りました。
このスピレートシステムを搭載した自動巻きムーブメントCal.9920は、もちろんマスタークロノメーター認定機です。
マスタークロノメーターはオメガのコーアクシャル脱進機搭載ムーブメントの標準装備となっている時計の規格です。コーアクシャル脱進機は簡単に言うとパーツ摩耗を低減し、従来品と比べてオーバーホールスパンを2倍も延長した画期的な脱進機です。マスタークロノメーターは2015年にオメガとスイス連邦軽量・認定局(METAS)が共同で設立した規格で、いくつかの厳格なテストが時計に課されるのですが、とりわけ15,000ガウスもの高磁場下での精度検査が高名です。つまりマスタークロノメーター認定腕時計は、15,000ガウスもの耐磁性を有している、ということを意味しています。業界トップクラスですよね。
なお、オメガは2013年に初めて15,000ガウスもの耐磁性能を実現したシーマスター アクアテラ Ref.231.10.42.21.01.002をリリースした歴史があります。2023年はオメガの耐磁性能への調整から数えてちょうど10年目。このアニバーサリーの意味合いもあってか、新型スピードマスター スーパーレーシングは、2013年発表のシーマスターのカラーリングから範が取られました。
ちなみに6時位置のデイトは、「10」だけSpeed Masterのロゴに用いられている、特別なフォントが用いられています。
出典:https://www.omegawatches.jp/
ブラック×イエローの融合が絶妙ですね。ちなみにセラミックベゼルのタキメータースケールもイエローですが、こちらはグラン・フー・エナメルで製造されています。美しく堅牢な仕上がりとなっており、特別感はひとしおです。アンティークオメガなどでも見受けられる、ハチの巣のような「ハニカム」模様の文字盤も見事です。付属のボックスもスペシャルなハニカム模様とのことですので、オメガの「本気」が存分に感じられる新作。
オメガファンも時計愛好家も要注目の逸品ですね!
グランドセイコー エボリューション9 テンタグラフ SLGC001
出典:https://www.grand-seiko.com/
スペック
素材:ブライトチタン
ケースサイズ:直径43.2mm
文字盤色:ブルー
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.9SC5
実勢相場:1,815,000円
最後にご紹介するのは、グランドセイコー初となるメカニカル(機械式)クロノグラフ!その名もテンタグラフです!
意外に思われるかもしれませんが、実はグランドセイコーのスプリングドライブにクロノグラフはあれど、メカニカルモデルでは展開されてきませんでした。人気のクロノグラフが、我らがグランドセイコーから新しく登場したとあって、話題性は十二分です。
この初のメカニカルクロノグラフのベースとなったのは、2020年にグランドセイコーから後悔された新世代ムーブメントCal.9SA5です。グランドセイコー誕生60周年の節目の年に満を持して発表された名機で、グランドセイコーらしいハイビート設計ながら、約80時間のパワーリザーブや、美しい仕上げ・装飾を備えた傑作機となっております。
なお、「ハイビート」というのは、機械式時計のテンプの振動数です。ここの振動数が高ければ高いほど精密な計測が可能となり、精度も安定します。一方でパーツ摩耗が激しく、またエネルギーを消費することから、長時間パワーリザーブを実現することが難しくなります。グランドセイコーは新世代Cal.9SA5によって、ハイビートと80時間パワーリザーブをついに両立するのですが、その記念碑的なムーブメントが現在量産可能となった結果、クロノグラフモジュールが組み込まれることとなりました。
そうして誕生したのが、Cal.9SC5です。
ちなみにテンタグラフはTen beats per second、Three days、Automatic chronographに由来しており、10振動/秒、3日間パワーリザーブ、自動巻きクロノグラフという意味が込められています。
出典:https://www.grand-seiko.com/
シースルーバックからは見事なコート・ド・ジュネーブ装飾があしらわれたブリッジや美しいルビー、そして獅子が堂々入ったローターを鑑賞できるというのも、時計好きにとっては堪らないポイントです。
なお、グランドセイコーはメカニカルクロノグラフの開発に当たって、グランドセイコー規格に同機構のための新しい検査項目を追加しました。精度や性能を追求し続けてきた同社らしいこだわりを象徴するエピソードの一つです。
もちろんムーブメントのみならず、外装もグランドセイコーらしく美しい高級機に仕上がります。グランドセイコー「理想を追求した新スポーツウォッチ」と称するのも納得です。
潜在写真を見ると、グランドセイコーらしく作りこまれた外装と文字盤が目に入ってくるのではないでしょうか。このデザインは、エボリューション9であることも大きく関係しているでしょう。
エボリューション9は2021年に登場したシリーズ9のアップデート版で、セイコースタイルに日本の美式を巧みに取り入れたコレクションです。
セイコースタイルとは、同社の伝統的なデザイン文法であり、その心は「燦然と輝く時計」。セイコースタイルならではの輝きはそのままに、唯一無二の美しさを備えたのが、新しいテンタグラフと言えます。
出典:https://www.grand-seiko.com/
確かに時計全体を見てみると、歪みのない鏡面仕上げとコンビネーションされた丁寧なツヤ消し仕上げによって織りなされる、高級機らしい立体感。エッジの効いたケースや力強く切り立ったインデックス。そしてグランドセイコーのメカニカルが製造される岩手県雫石市のグランドセイコースタジオから臨める、岩手山をイメージした文字盤…全てが調和して、日本の高級スポーツウォッチとして完成されていることがわかりますね。
ちなみに、仕上げが難しいとされるブライトチタンでこれらの仕上げを実現していることも特筆すべき点です。軽量で扱いやすいブライトチタンでケース・ブレスレットは製造されているため、直径43.2mm×厚さ15.3mmと大振りなケースとはなるものの、快適な装着感を実現していることでしょう。
国内定価1,815,000円と、グランドセイコーの中ではかなりの高価格帯となっております。
しかしながら、グランドセイコーのこれまでの伝統と、最先端技術と、国産クロノグラフのこれからが詰まった2023年新作となっており、高すぎるということはありません。
まとめ
2023年、見るべき新作腕時計を5選、ご紹介いたしました!
冒頭でも述べた通り、2023年は各社が非常に多彩かつ豊かな新作を続々展開しており、5選に絞るだけで1時間ほども悩んでしまいました。それくらい、良作揃いであったと感じています。
あなたの気になる一本があれば、ぜひ教えてほしいなと思います!
この記事を監修してくれた時計博士
Endo Youkoh
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC 上級ウォッチコーディネーター取得
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 銀座本店 販売スタッフ
1984年生まれ 神奈川県出身 時計業界2017年より
デザイン系の短大を卒業後、23歳で大手セレクトショップに入社。 主にレディースの服飾雑貨の責任者として、店頭接客・MD・VMD業務に携わる。入社10年目を機に更なるステップアップを目指し、高級時計店への転職を決意。2017年にGINZA RASIN入社。
人と話すのが好きで、スーパーポジティブな私は、現在お気に入りのIWC メカニカルフリーガークロノと共に店舗にて販売業務に従事。アパレル業界での経験を生かし、多角的な視点で記事監修を行っている。