「ノモス(NOMOS) グラスヒュッテ」の時計をご存知でしょうか。
ノモスとは1992年にドイツのグラスヒュッテで創業したドイツの時計メーカーです。バウハウス調のシンプルなデザインと、高度な技術を持つ機械時計としては比較的リーズナブルな価格設定なこともあって時計好きには人気で知名度が高いブランドです。
第二次世界大戦によって一度は経営を休止し、時代に翻弄されながらも見事に復活を果たし現在に至ります。
今回はそんな隠れた名作ノモスについて、その特徴と歴史を人気のモデルと共にご紹介していきます。
Owllar編集部で独自にランキングを作成しましたので是非参考ください。
ノモス(NOMOS) グラスヒュッテとは
出典:https://nomos-glashuette.com/
ノモス(NOMOS) グラスヒュッテは、東西のドイツが再統一を果たしたドイツ時計産業の発祥の地であるザクセン州「グラスヒュッテ」にて創業したブランドです。
1906年にグイド・ミュラー氏によって創立された名門時計メーカーですが、第一次世界大戦による国内情勢の混乱により、1910年からメーカーは長い事業閉鎖状態に陥ってしまいます。
閉鎖状態は西ドイツで当時デザイナーとして活躍していた「ローランド・シュヴェルトナー氏」が東西ドイツが統一された後にグラスヒュッテに渡り、1992年に新しいノモスとして再興されるまで続きました。("ノモス"とはギリシャ語で"秩序・法"を意味しています。世界が戦争から秩序を取り戻したことを示すために、ノモスが復活を遂げたのかもしれません。)
過去に廃業してしまった「ノモス」の思いを引き継ぐ形で現在のノモスが誕生したと言われています。(厳密に別会社として区別するため、現在のノモスの正式名称は「ノモス グラスヒュッテ」です。)
そんなノモスの特徴についてご紹介します。
本格マニュファクチュールの時計
出典:https://nomos-glashuette.com/
ノモスの魅力はスタイリッシュなデザインということだけではありません。
1992年に再興した当初は、ETA社のPeseux 7001を改造し金メッキ加工したムーブメントを使用していましたが、2005年には自社開発ムーブメント搭載モデルを発表し、マニュファクチュールの仲間入りをしていることでも知られています。
老舗メーカーでも自社製造が難しいとされているヒゲぜんまいの自社開発に成功しており、卓越した技術を備えていると言えます。
2007年にはドイツの高級時計店向けに「トゥールビヨン」を搭載した複雑なムーブメントを製作し、高い技術力を証明しました。ノモスの本格時計は中身にもこだわる時計愛好家たちからも高い評価を得ています。
ノモスのムーブメントにはグラスヒュッテの名がダイアルに入っています。
“グラスヒュッテ”を名に入れるには、「ムーブメントの50%以上をグラスヒュッテで手がけている」必要があるのですが、ノモスはグラスヒュッテにあるパーツ工場でねじの一本一本から生産し、各ムーブメントの完全なグラスヒュッテ生産を可能にしています。
ノモスにつく「グラスヒュッテ」の名称は、その高い品質と技術の証明でもあるのです。
圧倒的なコストパフォーマンスの良さ
出典:https://nomos-glashuette.com/
ノモスの魅力としてはずせないのは、高級時計を初めて購入する人におすすめなリーズナブルな価格設定です。
精度が高いオリジナルムーブメントを搭載しているにも関わらず、フラッグシップモデルであるタンジェントは30万円以下という比較的手に入れやすい価格設定です。
「量産体制を徹底する・デザインをシンプルにして共有パーツを多用し組み立てを簡略化する・無駄な広告はしない」などの戦略によりこの価格で高品質な時計を実現しています。
多彩なラインアップ
出典:https://nomos-glashuette.com/
スポーティー、または華やかなデザインが人気となりやすい高級時計業界の中で、シンプルなスタイルによって知名度を上げたノモスですが、近年ではコレクションを拡充して多彩なラインナップとなってきました。
フラッグシップモデルである手巻きのタンジェントや、タンジェントのデザインを踏襲した機械式のタンゴノマット、ポップなカラーのメトロ、クラシカルな印象のオリオンなど現在では13種類ものモデルがあります。そのコレクションは多彩で選ぶ楽しみがありますね。
高品質シェルコードバンストラップ
ノモスの腕時計に使用されているストラップの革は農耕馬のお尻の部分の皮「コードバン」です。
コードバンは馬1頭から1割程度しかとれない非常に貴重な革です。
普段から鞭で打たれて過ごしていたことによる繊維組織の丈夫さ、そしてタンニンなめしによる独特の光沢をもつことが特徴です。その中でも、ノモスの時計に使用されるのは最高級である「シェルコードバン」です。
アメリカ、シカゴに本拠を置く最高級のコードバン素材を扱う皮革製造業者である「ホーウィン社」が開発しており、他社との差別化を図り最高級のコードバンを分かりやすく知ってもらうために、「シェルコードバン」として商標登録しています。
シェルコードバンはオイルをたっぷり含むので、初めから重厚な光沢感があって使い込む事でさらに磨きが増していく最高級のコードバンです。
ノモスデザインの基礎となるバウハウス
出典:https://officialbauhaus.jp/
バウハウスは1919年から1933年までの間に、ドイツのワイマールで始まった影響力のある芸術とデザインの運動です。
1919年にヴァイマル共和政期ドイツのヴァイマルに設立された、工芸・写真・デザインなどを含む美術と建築に関する総合的な教育をおこなった学校のことも指します。無駄な装飾を廃して合理性を追求するモダニズムの源流となった教育機関で、活動の結果として現代社会の「モダン」な製品デザインの基礎を作りあげました。
タンジェントをはじめ、ノモスの時計はバウハウスに範を取ったというきわめてシンプルで機能的なデザインをしています。
①ノモス タンジェント
出典:https://nomos-glashuette.com/
タンジェントはノモスの看板とも言えるフラッグシップモデルです。
様々なサイズや巻き上げ機構や機能が違うバリエーションがあり、ノモス初の自社製ムーブメント「NOMOS α」を搭載しています。
出典:https://nomos-glashuette.com/
「NOMOS α」は、厚さ2.6mmとムーブメント全体を薄くすることでケースの肥大化を防ぎ、シンプルで綺麗なノモスのデザインを作り上げることに成功しています。
基本的なデザインはラウンドケースと直角で構成されたフォルムや、タイポグラフィの数字によるアワーインデックス、更に白銀仕上げの文字盤や青焼き針などのデザインは、発表当初からドイツ国内外で高い人気を獲得しています。
ケースサイズは直径33mmから41mmまで、手首に合う多くのサイズが存在します。パワーリザーブインジケーター付モデル・デイト付きモデルもラインナップされており、カラーバリエーションも豊富になってきています。
初期モデルは発売から25年間で、レッド・ドット・デザイン賞などプロダクトデザインの名だたる賞をいくつも受賞しています。
ノモス タンジェント 35mm シルバーダイアル
品番:TN1A1W2(139)
ケース径:35mm
素材:ステンレススティール
実勢価格:20万円~
35mmケースに手巻きムーブメントαを搭載した“タンジェント”です。
ラウンドとフラットな面と直線で構成されたケースデザイン、美しく焼かれたブルースチール針が特徴です。(ブルースチール針は実際に色がついているわけではなく温度によって酸化皮膜の厚みが増すことで光の干渉色が変化して作られており腐食の防止効果もあります。)
文字盤にはシンプルな2針+スモールセコンドを配し、インデックスは偶数にスリムな書体で記されたアラビア数字が使われた品がある「飛びアラビア」です。
裏蓋はシースルーバックで、3/4プレートとテンプ受けに「グラスヒュッテストライプ模様」と名付けられた美しい仕上げが施され自社製手巻きキャリバー「NOMOS α」を確認できます。
ストラップには独特な光沢を放つ高品質なシェルコードバンを使用しています。
パワーリザーブ43時間、30m防水。
②ノモス アホイ
出典:https://nomos-glashuette.com/
モデル名の“アホイ”は、ヨーロッパの船乗り同士の挨拶から付けられました。
アホイはノモスのラインナップの中で唯一リューズガードを備えており、200m防水とダイバーズウォッチならではの高い防水性能を誇るモデルです。
ケースバックはネジで完全固定されていて、ねじ込み式リューズ及びリューズガードによって高い密閉性が実現されています。
同社の基幹コレクション「タンジェント」の、スポーティーな姉妹モデルのような位置づけとなっており、シグナルレッドやブルーといった鮮やかなカラーのラインアップが魅力となっています。
出典:https://nomos-glashuette.com/
ムーブメントには自社製で自動巻きの「DUW5101」が搭載されています。
この「DUW5101」はノモスの自社製ムーブメントであるCal.ε(イプシロン)をベースにしたハイエンドなムーブメントで自動巻きモデル用の日付表示付きとなっており、伝統的な手法と高い精度を兼ね備えた高品質な時計を実現させています。
ノモス アホイ ネオマティック アトランティック
品番:AH130011AT2(561)
ケース径:36.3mm
素材:ステンレススティール
実勢価格:36万円~
シンプルな3針ウォッチをベースにし、飛びアラビアインデックス・ビビットなカラーを纏った針・大西洋の深い海をイメージした「アトランティックブルー」と呼ばれるブラックを強く感じるダイアルカラーが見る人を楽しませてくれる時計です。
6時位置のスモールセコンド針には視認性を高めるためにオレンジカラーを配し、水切れの良いシンセティックナイロンストラップを採用しています。
ノモス初のリューズガードとねじ込み式リューズを採用し、200mの防水モデルとなっています。パワーリザーブ43時間。
③ノモス オリオン
出典:https://nomos-glashuette.com/
オリオンはノモスの中で最もシンプルなモデルです。
そのためシンプルな時計が好きという人にはタンジェントに劣らず人気となっています。(ノモスの多くのデザイナーの間でも個人的なお気に入りにあげられるモデルです)
オリオンの特徴は飾り気のないバーインデックスにエレガントなドーム型のサファイアガラスのケース、針のカラーはシルバーやブラック、ブルーなどのバリエーションがあり全体のアクセントになっていることです。
出典:https://nomos-glashuette.com/
オリオンは非常に高精度の腕時計としても知られ、ムーブメントには手巻きの「NOMOS α」か「DUW4101」が搭載されており、特に「DUW4101」ムーブメントに採用されている「ノモススイングシステム」は高い評価を受けています。(青焼きされたヒゲぜんまいの有無によって識別できます)
上質なシェルコードバンストラップがオリオンの上品さをさらに高め、シンプルでありながら気品あるオリオンはスーツにも合わせやすくフォーマルでも活躍してくれる頼もしい時計です。
ノモス オリオン38 グレーダイアル
品番:OR1A3LG238(383)
ケース径:38mm
素材:ステンレススティール
実勢価格:32万円~
ケースエッジに丸みを持たせ、バーインデックスを採用したモダンでクラシカルな雰囲気を持った“オリオン”です。
ケース径38mmと使いやすい大きさで視認性が良く、存在感を感じられるロジウムメッキ仕上げの文字盤と、ホワイトの型押し加工がされたインデックスが特徴です。控えめながら美しい輝きのロジウムメッキの針と相まってエレガントで高級感が漂います。
文字盤のグレーは知識の色とされ、白や黒よりも複雑で魅力的に映るでしょう。
高い称賛を受けている「NOMOS α」キャリバーを動力としています。
パワーリザーブ43時間、30m防水。
④ノモス ラドウィッグ
出典:https://nomos-glashuette.com/
“ラドウィッグ”という名前はドイツ語圏の男性名の英語読みから由来しています。「ルートヴィヒ」とも読み、 "名高き戦士”という原義を持ち、学者や音楽家・貴族達に好んでつけられた崇高で知的な名前の1つとして知られています。
1992年の創業期のモデルから、基本デザインを変えることなく代表モデルタンジェントと並んで定番です。アラビア数字インデックスのタンジェント、バーインデックスのオリオンとはまた違ったシンプルテイストを愉しめるモデルです。クラシカルなブルースチール針とローマ数字・レイルウェイ目盛りのフェイスが知的な印象を与え、スリムなベゼルとラグのコンビネーションも全体を引き締めています。
文字盤だけでなくラグやベゼル・ケースはやや丸みを帯びており、より正統派でエレガントな印象が古き良きドイツスタイルを感じさせます。ムーブメントは、手巻きでパワーリザーブ約43時間の「NOMOS α」を採用しています。
ノモス ラドウィッグ 35 シルバーダイアル
品番:LD1A2W2(205)
ケース径:35mm
素材:ステンレススティール
実勢価格:22万円~
35mmケースに、パワーリザーブ43時間の手巻き「NOMOS α」を搭載したラドウィグ。
ケースは小ぶりですが、ドレスウォッチはこれくらいがベストとされ、ラグが長めなので存在感もあります。
ダイアル上の全てが直線と正円で構成されたシンプルなフェイスが特徴です。ダイアルは白銀による細かいパウダー状の装飾が施され、亜鉛でメッキ施すガルバナイズド加工を採用しており、耐腐食性を高め日焼けや錆を防いでいます。
ケースの厚みは6.3㎜ですがデザインに曲線を多用しており、実際にはサイズより薄く感じられます。裏蓋はシースルーバックで、美しい仕上げが施されたキャリバー「NOMOS α」を確認できます。30m防水。
⑤ノモス クラブ
シンプルな機能美を特徴としているノモスの中で一味違う個性を放っているクラブ。
クラブはノモスのなかでスポーツウォッチとしての位置にあり、「クラブ」「クラブ スポーツ」「クラブ キャンパス」「クラブ アクア」の4つに分かれていて全部で24モデルもあります。
クラブシリーズのケースは全て、ラウンド型、スモールセコンドによって外観をクラシックな装いで仕上げています。
ノモスとしては大型サイズのクラブ スポーツ、ネオンカラーのインデックスを配したクラブ ネオマティックなど多彩なバリエーションが展開され、若々しくスポーティーな印象となっています。
文字盤にはアラビア数字、ローマ数字、バーで表示する「ユニークダイアル」を採用したデザインで時計全体に遊び心を加え、クラシックながらもカジュアルな雰囲気で身につけることができます。
キャンパスとアクアシリーズのクラブでは、スーパールミノバでコーティングされた文字盤と針が特徴的で、暗闇の中でもしっかり時間を読み取ることができます。
出典:https://nomos-glashuette.com/
クラブにはデイト表示と自動巻きバージョンのモデルもあり、ムーブメントはモデルによって「NOMOS α」「DUW3001」「DUW6101」など様々なものを搭載しています。“禁止時間帯のない日付調整機能”が備わったDUW6101など注目されるものが多いです。(裏蓋はシースルーになっているモデルとそうではないものとが存在します。)
ノモス クラブ ネオマティック39 キャンパス ミッドナイトブルー
品番:CL130011BL239CP(767)
ケース径:39.5mm
素材:ステンレススティール
実勢価格:30万円~
シンプルな3針ウォッチながら、飛びアラビアとローマ数字のインデックス・テキスタイルストラップなどノモスならでは機能美が集約されたモデルです。
ダイアルの夜空のような深い青がクールな印象を与えてくれます。
針と数字にはスーパールミノバのコーティングが施されており、暗闇でもはっきり時間を読み取ることができます。
クラブ キャンパスシリーズは「初めて本格的な時計を手にする人へ向けたステップアップの時計」をコンセプトに作られたため、使いやすい上位自動巻きムーブメントのCal.3001を搭載しています。
Cal.3001は巻き上げ効率の高いリバーサー式の自動巻きキャリバー搭載により、手巻きの必要性をほぼなくし、機械式時計初心者でもさらに使いやすい仕様にグレードアップしています。パワーリザーブ43時間。200m防水。
⑥ノモス テトラ
出典:https://nomos-glashuette.com/
ノモスはシンプルを軸にしながらバリエーションに富んだモデルを展開していますが、中でも目を引くテトラはノモスで唯一のスクウェア型モデルです。名前の由来はギリシャ語の接頭辞で数字の「4」を意味し、モデル名の通り四角形となっています。
手巻きと自動巻きのモデルが存在し、カラーバリエーションも豊富となっています。
スクエアケースに飛びアラビア数字のインデックスとブルースチール針を収め、腕元で存在感を放ってくれます。
ノモスのモデルの中では一番ケースサイズが小さく設計されているため 女性向きモデルでもあり、フォーマルな場や服装にも非常に相性が良い時計です。スマートで知的な雰囲気は若い世代の方にも好評です。ムーブメントはモデルによって「NOMOS α」や「DUW3001」など様々なものが搭載されています。
ノモス テトラ ネオマティック 39 シルバーカット
品番:TT130011SC2(423)
ケース径:33mm
素材:ステンレススティール
実勢価格:50万円~
「At Work」シリーズというオフィスで活躍するビジネスパーソンをイメージして作られたテトラです。シリーズに搭載されている厚さ3.2mmのムーブメントDUW3001は、センターローターを備えた自動巻きの中でトップクラスの薄さを誇るため、ケース厚も7.3mmと薄型でワイシャツの袖の中に時計が収まりやすく、装着感に優れたモデルです。
シルバーカットと名付けられた文字盤の仕上げは、「At Work」シリーズのために作られた、ゴールドとロジウムプレートを使用した複雑な仕上げとなっています。
スクエアケースとシルバーカットダイアルは相性が良く、さらにブルースチール針と赤い秒針の指し色としての効果も加わり、洗練されたモダンなデザインとなっています。30m防水。
最後に
ノモスはドイツの近代史を強く反映したブランドで時計愛好家などの評価が高いブランドです。また実は1906年に既に原型となるブランドが誕生していて歴史が長いという特徴もあります。
その魅力はどれもシンプルで薄くどんな場面にも馴染む優れたデザイン、機械式時計であっても手に入れやすい価格帯というところです。
扱いやすくクラシカルな印象なのでオフィスワークだけではなく様々なシーンに馴染み、初めての機械式時計にぴったりな時計といえるのではないでしょうか。
この記事を監修してくれた時計博士
Onoda Koichi
一級時計修理技能士取得
高級時計専門店GINZA RASIN 本社 ロジスティック部 商品管理課 主任
1982年生まれ 神奈川県出身 時計業界2005年より
大学卒業後、時計の販売や修理受付を経験した後、修理専門学校に入学。メンテナンスの基本知識を学ぶ。2009年に専門学校卒業後、時計専門の修理会社や国内メーカー、正規輸入代理店で腕を磨き12年以上の時計修理実務経験を経た後、2023年3月より商品管理業務に従事。
なお、国内メーカー在籍時、時計技能競技全国大会に出場した経歴を持つ。