ロレックスの中でも高い人気と知名度を誇るサブマリーナー。
1953年に発表されてから、完璧なダイバーズウォッチとして時計業界に影響を与え続けているモデルです。
ロレックスというブランドの中でも、特に長い歴史を持つ由緒正しいモデルのため、色々な種類のヴィンテージが存在します。
サブマリーナーに限らず、ヴィンテージはその“コンディションやエイジング”の良し悪しで価値が大きく変わってきます。
今回はサブマリーナーの、ヴィンテージ・ポストヴィンテージについてご紹介していきます。
サブマリーナー人気のヴィンテージモデル
サブマリーナーの中にも、他のロレックスモデルと同様にヴィンテージと呼ばれるモデルがあります。ヴィンテージというものに明確な定義はありませんが、1970年代〜1980年代以前に製造されたものを指すことが多いです。
ロレックスの型番は数字で表記されますが、4桁のモデルはヴィンテージに分類されます。近年では5桁の一部モデルもポストヴィンテージとして扱われていて人気となっています。(1980年〜2000年位までに製造された時計がそう呼ばれることが多いようです)
ヴィンテージモデルは、現行モデルには無い風合いがあり、1本1本エイジングが異なっている為、世界で1本の個性ある自分だけの時計が欲しいという方には特におすすめです。
ヴィンテージモデルを選ぶ時に、特に注目すべきポイントのトリチウム夜光とベゼルディスクの2点についてご紹介致します。
ヴィンテージモデルの中でも特徴的なものは“トリチウム夜光”を使用した個体です。
“トリチウム夜光”はトリチウムという放射性物質を使用した夜光塗料で、ルミノバ以前に使われていた技術です。
ロレックスでは、時計の夜光塗料部分に以前はラジウム夜光を使っていましたが、1960年頃にトリチウム夜光に移行しています。その理由はラジウムに混合されている放射性物質が影響し、製造の際に健康被害が拡大したからと言われています。
トリチウム夜光はその量が減っていき、もとの量の半分になるまでにかかる時間が約12年と短く、放射線量も少ないため1960年代頃〜90年代頃まで長期にわたり使用されています。
時間の経過とともに蓄光時間が短くなっていき、最終的には光らなくなっていくという特徴もあります。
殆どの場合は白色の夜光塗料なのですが、経年により焼けが生じ、上記の写真のようにクリーム色やオレンジ色へと経年変化していくのです。
ただし、メンテナンスに出した際に、針やダイヤル・夜光部分がメーカーで新しいルミノバへと交換されてしまうこともあり、「オールトリチウム夜光」のままで状態が良い個体は価値が高いものとされています。
サブマリーナーでは6桁のセラミックベゼルが通常ですが、5桁以前に遡ると“アルミベゼル”が採用されています。サブマリーナーデイトに関しては、Ref.16610までアルミベゼルを使用していました。アルミベゼルは傷がつきやすく、表面の色が経年変化する事もあります。この現象が、独特な風合いを作り出すことを「エイジング」と呼び、世界で一つの時計を生み出すことにつながります。
それではサブマリーナーのヴィンテージモデル、ポストヴィンテージモデルを年代順にご紹介していきます。
Ref.5512
スペック
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 40mm
文字盤色:ブラック
Ref.5512は、1959年頃に登場して以降、1970年代初期まで製造されたサブマリーナーの第3世代にあたるモデルです。
サブマリーナー史上初のリューズガードを備えた世代としても知られています。
(※写真はリューズガードです)
クロノメーター規格をパスしているモデルの一つで、ムーブメントにはCal.1530、Cal.1560、Cal.1570を搭載したものが存在します。
Cal.1530は、1958年頃から1965年頃まで製造されていた短命なムーブメントですが、1960年代の後期型からアルミニウム素材に変更し軽量化が図られ、表面にレッドアルマイト硬化処理を施すことで摩擦を最小限に抑え、高い巻上げ効率を実現したムーブメントです。
Cal.1560は、1965年頃から1970年代頃まで製造されていました。精度の調整方法として、それ以前使用していた緩急針を排し、ロレックス独自のマイクロステラスクリューによるフリースプラング方式を初めて採用したムーブメントです。このことによりテンプの回転半径を変え、進みや遅れの調整をする方法で衝撃に強く、精度が安定するという利点があります。
Cal.1570は、1960年代半ばから1980年代後半頃まで長期間にわたって製造されました。
ロレックス社製ムーブメントの中でも、精度と耐久性のバランスが取れた傑作ムーブメントとして、高い評価を獲得しています。
精度調整はCal.1560同様に、マイクロステラスクリューによるフリースプラング方式に変更され、リバーシングギアにも改良が加わって巻き上げ効率が向上しています。
Ref.5512/ミラー/トロピカルダイヤル
写真は、Ref.5512の中でも初期にしか見られない希少なブラウンチェンジが見られるミラーダイヤルです。
生産初期のこちらのモデルは特に人気で、コンディションによっては数百万円で取引されているものもあります。
Ref.5513
スペック
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 40mm
文字盤色:ブラック
ヴィンテージの中でも抜群の人気を誇るRef.5513。1962年から1989年頃まで、マイナーチェンジを繰り返しながら約30年にわたるロングセラーとなった歴史的モデルです。ムーブメントは自動巻きCal.1520と、Ref.5512でも使用されていたCal.1530を搭載しています。
Cal.1520は、1963年頃から1980年代頃まで製造されたムーブメントです。
ノンクロノメーター仕様ながら、20年以上という長い期間活躍し信頼性が高いものとなっています。毎時18,000振動から毎時19,800振動に振動数を高め、精度の向上が図られています。
Ref.5513のインデックスには、メタル枠の有無によって"フチあり"と"フチなし"に大別され、前期ダイヤルにあたる"フチなし"には、メーターファーストや、ミニッツサークル・ミラーダイヤルなどの希少性が高い個体が多数存在します。
このモデルはノンクロノメーター仕様ですが、特殊機種のベースモデルや、イギリス海軍への採用など性能への信頼が高いこともあり、注目度が高くなっています。
「Ref.5513」については、ヴィンテージの種類が豊富にありますので分かりやすいように別記事と、動画で珍しい個体をピックアップしてご紹介します。是非ご覧になってみてください。
Ref.1680
スペック
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 40mm
文字盤色:ブラック
ロレックスの黄金期を代表する“サブマリーナー”。その中でもデイト表示が付いた最初のモデルであるRef.1680です。
1960年代に誕生したその当時、精度と耐久性のバランスのとれた最高傑作と名高い自動巻きムーブメントCal.1570を搭載しています。Cal.1570は、その後約20年という長い期間スポーツロレックス全般に使用されることになります。
1970年以降の個体については、“Cal.1570”にリューズを引くと秒針が止まるハック機能がついて、秒単位で時刻を合わせることができます。
24時ちょうどになると日付が変わる「デイトジャスト機能」も搭載し、スクリュー式リューズは2段階式だったものが1970年代頃より3段階ロック式の“トリプルロックリューズ”に変わりました。
風防は現在のものと異なり、プラスチック製ですが300m防水に向上。防水性能、視認性を合わせて日常で使いやすいスポーツモデルに進化しています。
裏蓋・ケースサイドはポリッシュ加工、フェイス側はサテン仕上げと、あえて異なるデザインとなっており細部までこだわって作られています。
Ref.1680/赤サブ/マークⅥダイヤル
こちらは希少価値の高いSUBMARINERの表記が赤い通称“赤サブ”です。
1970年代前半頃までにみられる仕様ですが、製造年ごとに「前期型」「後期型」と分けることができます。こちらの個体は後期型です。
前期型は、防水表記のフィートとメートルが逆になっています。
ダイヤル夜光部分のトリチウム夜光が経年変化でヤケており、良い風合いになっています。
(※写真はRef.1680です。左上から順番にマークⅡ、マークIII、マークV、マークⅥです)
上記モデルのように、Ref.1680の中には“赤サブ”と呼ばれる個体があります。
少しわかりにくいですが、上記の写真のようにレタリングの違いによって“マークⅠ〜Ⅵ”まで分別されており、その製造期間は1967年頃〜1970年代前半の数年間ほどで、シリアル品番は“20”から始まり“45”までと考えられています。
ヴィンテージロレックスの中でも人気が高く、発売当時は166,000円ほどだったのが、現在では価格が高騰して10倍ほどの値段がつく個体もあります。
Ref.1680/赤サブ/マークⅡダイヤル/トロピカル
“赤サブ”というだけで非常に珍しいモデルですが、その中でも希少なマークⅡダイヤルです。更にこちらの個体は通称“トロピカルダイヤル”で、全体がバランスよくブラウンチェンジしており、非常に味わい深いダイヤルになっています。ここまで綺麗な色合いをした個体は珍しいです。
ベゼルは全体的に綺麗に経年変化しており、トロピカルダイヤルと相まって非常にオーラを感じる個体です。
ムーブメントCal.1570を搭載、夜光部分はオールトリチウムとなっています。
“トロピカルダイヤル”とは時計のダイヤルや外観が紫外線によって変化したものを指す言葉です。
主に1960年代に作られたミラーダイヤルに見受けられる特徴であり、ブラックのダイヤルが茶色っぽくなる、時計にとっての日焼けのような経年変化を意味します。ほとんどのミラーダイヤルは経年変化が起こったとしても、ただひび割れたり艶の塗装が剥がれたりするだけです。
もとより貴重な上にミラーダイヤルを備えている時計はごく僅か、さらに綺麗に経年変化しているのは本当に珍しいことです。
4桁のヴィンテージモデル
サブマリーナーは1953年の誕生以来、基本的なデザインを変えずにマイナーチェンジを繰り返しながら進化しているダイバーズウォッチです。
サブマリーナーの4桁ヴィンテージモデルは、特に進化の過渡期に製造されたため様々なバリエーションがあり、そこにはコレクターの心をくすぐる世界が広がっています。
それでは続いて、5桁のポストヴィンテージのデイトモデルをご紹介します。
Ref.16800
Ref.16800は、1980年頃〜1986年頃まで生産されたサブマリーナーデイトの第二世代です。
ロレックスの変換期に誕生したこのモデルは、現行品に継承される様々な仕様変更がありました。
プラスチック風防はサファイアクリスタルガラスになり、前モデルRef.1680の200m防水から300m防水へと進化しています。Cal1570ムーブメントからハイビート仕様のCal.3035へ変更し、精度も上がりました。
Cal.3035には、クイックチェンジ(日付の早送り)機能が搭載されていて、操作性も向上しました。また逆回転防止ベゼルが付き、夜光インデックスには1985年頃からメタル枠が付けられた"フチあり"が採用されています。
ダイバーズウォッチとしての完成されたデザインを引き継ぎながら、実用性が格段に上がったモデルです。
Ref.16800/スパイダーダイヤル
こちらはRef.16800。ダイヤル表面の塗装(塗膜と思われる)が、ひび割れている状態を指す「スパイダーダイヤル」の個体です。
Ref.16800は、インデックスにフチの無い前期モデルと、フチのある後期モデルがありますが、こちらは1984年頃に製造されたフチのある後期モデルです。
Ref.16803 ブルー
スペック
素材:ステンレススティール×イエローゴールド
ケースサイズ:直径 40mm
文字盤色:ブルー
Ref.16803は、サブマリーナー・デイトの第二世代モデルとして登場しました。
1980年代半ば頃〜1988年頃に製造された製造年数の少ないモデルで、ブラックとブルーダイヤルが存在します。このうちブルーダイヤルは旧型の“青サブ”と呼ばれ人気が高いです。
これ以前のサブマリーナーは、ステンレスモデルとイエローゴールド無垢の2種類でしたが、こちらのモデルからコンビモデルが誕生しました。
風防にサファイアクリスタルガラスを採用して、300mもの高い防水性能を持っています。
搭載されるCal.3035は毎時28,800振動のハイビート仕様、日付の早送り機能(クイックチェンジ)も可能となり、高い精度と操作性を兼ね備えたモデルといえるでしょう。
Ref.16803 ブルートロピカル/オールトリチウム
こちらのRef.16803は、イエローゴールドとブルーのコントラストが、ダイバーズウォッチながら高級感のあるモデルです。
またこちらは、経年変化によって元々の色とは違う色味になった「トロピカル」ダイヤルを備え、現行モデルには存在し得ない独特の風格を漂わせています。
Ref.16803/フジツボ/ブラック
Ref.16803の“フジツボダイヤル”の個体です。
“フジツボダイヤル”とは、1960年代〜1980年代のサブマリーナーやGMTマスターに見られる仕様です。インデックス枠のイエローゴールド部分が大きく、夜光塗料の面積が非常に小さいため、海岸の岩場に生息するフジツボのように見えることから通称“フジツボダイヤル”と呼ばれています(海外ではニップルとも呼ばれることも)。流通量が少なく希少性が高い個体です。
Ref.14060
スペック
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 40mm
文字盤色:ブラック
Ref.14060は、約30年にわたって製造されたRef.5513の後継モデルです。
ベゼルがアルミ製でレトロな雰囲気があります。
Ref.14060の中でも夜光がオールトリチウムの個体は、希少なので高い人気を誇っています。
当時の最先端技術で作られたCal.3000ムーブメントを使用し、潜水時の安全を考え、半時計回りにしか回らない逆回転防止ベゼルも採用しています。
プラスチック製のドーム風防から、強度の高いサファイアクリスタルに変更され防水性能が300mになりました。サファイアクリスタル風防は、フラットでよりスッキリとした印象に進化しています。
Ref.16613/ブルー
スペック
素材:ステンレススティール×イエローゴールド
ケースサイズ:直径 40mm
文字盤色:ブルー
Ref.16613は、ベゼル・リューズ・ブレスレットにイエローゴールドを使用した高級感のあるコンビモデルです。
ダイヤルはブルーとブラックがあり、それぞれ“青サブ”・“黒サブ”と呼ばれています。
また、ラグジュアリー・ダイバーズらしくインデックスにダイヤモンドとサファイアがセットされたシャンパン、グレーダイヤルのバリエーションも販売されています。
約20年間も製造されているロングセラーモデルであり、その長い製造期間からケースやブレスレットの改良など様々なマイナーチェンジがおこなわれています。
1世代前のデザインをおさえつつ、ツインブリッジで安定感が増したCal.3135ムーブメントに変更されています。
Ref.16613/ブルートロピカル/オールトリチウム
サブマリーナーの中でも人気がある通称“青サブ”です。派手なイメージのあるステンレスとゴールドのコンビですが、ダイヤルとベゼルのブルーにより爽やかな印象を与えてくれます。
またこちらのモデルはダイヤル全体的に経年変化しグレーがかった深みのある色合い「ブルートロピカルダイヤル」となっています。雰囲気の良いヴィンテージモデルが欲しいという方にぴったりの個体です。
Ref.16618
スペック
素材:イエローゴールド
ケースサイズ:直径 40mm
文字盤色:ブルー
1989年から約20年にわたり製造されたロングセラーモデルで、ブラックとブルーの2種類が存在します。
スタンダードなモデルはステンレス製ですが、こちらのモデルは防水300mはそのままに外装に華やかなイエローゴールドを使用しています。
デイトジャスト機能つきのCal.3135ムーブメントを使用し、潜水時の安全を考え、半時計回りにしか回らない逆回転防止ベゼルも採用しています。
リューズは防水性能が高いスクリューロック式を使用しています。
Ref.16618/バイオレット/パープル
(※写真はRef.16618。こちらは向かって左がバイオレット/パープルです)
こちらはRef.16618の中でも90年代のごく一部にしか見られない、紫色のダイヤルを備えた個体です。
この色味は、年式やダイヤルを製造した工場によって出来る違いと言われています。
比べると見た目ではっきりと分かるバイオレット(パープル)カラーになっており、全体のイエローゴールドとダイヤルのパープルとのコントラストが鮮やかなモデルです。
Ref.16618/オニキス
こちらはRef.16618の中でも大変珍しい、ダイヤルに黒い天然石“オニキス”を使用したモデルです。
金無垢およびコンビモデルで5桁のサブマリーナー限定のダイヤルと言われています。
オニキスは悪霊を祓う魔除けの石で、嫉妬や妬みなど悪い感情から持ち主を守ってくれると言われています。
黒ダイヤルとの特徴の違いとして、カレンダー表示の窓に金枠があります。
5桁のポストヴィンテージモデル
5桁のサブマリーナーにも、長い変遷を感じさせる特徴があるものがたくさんあります。ヴィンテージ・ポストヴィンテージだからこそ楽しめるロマンがあるモデルは、今後個体数が減っていくのは必至です。購入を検討されている方は、その時が決断する時かもしれません!
最後に
サブマリーナーは長い歴史をもったモデルなので、珍しい経年変化を生じたヴィンテージ・ポストヴィンテージを探すことが楽しめます。
また、「時計が持つ歴史を知る」ということも大変興味深いですね。そしてヴィンテージの時計はとても繊細なので、手に入れることができたら大切に扱ってくださいね。
この記事を監修してくれた時計博士
Endo Youkoh
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC 上級ウォッチコーディネーター取得
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 銀座本店 販売スタッフ
1984年生まれ 神奈川県出身 時計業界2017年より
デザイン系の短大を卒業後、23歳で大手セレクトショップに入社。 主にレディースの服飾雑貨の責任者として、店頭接客・MD・VMD業務に携わる。入社10年目を機に更なるステップアップを目指し、高級時計店への転職を決意。2017年にGINZA RASIN入社。
人と話すのが好きで、スーパーポジティブな私は、現在お気に入りのIWC メカニカルフリーガークロノと共に店舗にて販売業務に従事。アパレル業界での経験を生かし、多角的な視点で記事監修を行っている。