GMTマスターは1955年にアメリカン航空の国際線パイロットのために作られた、ロレックス唯一のパイロットウォッチです。約30年後の1982年には初代のGMTマスターのムーブメントを改良した、GMTマスターⅡが発表されました。
他のロレックスとは違った2色のベゼルが特徴で、青と赤・青と黒・黒と赤・茶と金など様々なパターンが発表されており、ペプシ・コーク・バットマン・カフェオレ・ルートビアなどたくさんの愛称を付けられ、コレクション性が高いため常に注目されています。
GMTマスターのベゼルが他のスポーツロレックスと違うのは24時間表記の両回転ベゼルが使用されていることです。今回はそんなGMTマスターの歴史を系譜と共にご紹介していきます。
INDEX
- GMTマスターとは
- GMTマスターの系譜
- 6542(製造期間 1955年~1959年頃)
- 1675(製造期間 1960年代~1980年頃)
- 16750(製造期間 1980年~1988年頃)
- 16700 (製造期間 1990年頃~1999年頃)
- 16760(製造期間 1982年~1988年)
- 16710(製造期間 1990年~2007年)
- 116713LN SSxYG(製造期間 2006年 ~ )
- 116710LN(製造期間 2007年~2019年)
- 116710BLNR(製造期間 2013年 ~2019年)
- 116719BLRO(製造期間 2014年~2018年)
- 126710BLRO(製造期間 2018年~)
- 126711CHNR(製造期間 2018年〜)
- 126710BLNR(製造期間 2019年~)
- 126720VTNR(製造期間 2022年 ~現在 )
- 126713GRNR(製造期間 2023年 ~現在)
- 最後に
GMTマスターとは
ロレックスでも正規店では入手困難といわれる人気モデルのGMTマスターですが、どのような特徴があるのか説明していきます。
セカンドタイムゾーンが設定できる
GMTマスターのベゼルは回転式になっており、別の国のタイムゾーンに合わせることができます。2色になっているベゼルは「昼と夜」を見分けるデザインで、2つの場所の時刻をすぐに見分けることができます。
さらに1982年製造のモデルからは合計3カ国分の時刻を設定できるようになりました。出張が多い方、グローバルな会社に携わっている方や身内が海外で生活している方に便利な機能です。
防水性が高い
GMTマスターは防水性が高く、現行モデルは100メートル防水となっています。そのため日常生活レベルの水分では故障の心配がなく安心して使うことができます。
屋外で仕事をしたり、悪天候の中を移動したりなどさまざまなシーンで使える時計です。
高品質なムーブメントを採用
出典:https://www.rolex.com/
GMTマスターの現行モデルは、2018年のバーゼルワールドで登場したGMTマスターII専用のムーブメントCal.3285を搭載しています。約70時間のパワーリザーブでゼンマイを巻き上げた後70時間動き続ける頼もしい存在です。
精度日差-2〜+ 2 秒となっており、ロレックス独自の新規格「高精度クロノメーター」の導入により、クロノメーターよりも厳しい検査基準を設けています。
GMTマスターの系譜
それではロレックス人気モデル「GMTマスター」についての歴史を、系譜とともにご紹介していきます。
6542(製造期間 1955年~1959年頃)
出典:https://www.bobswatches.com/
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール
ベゼル素材:プラスチック・アルミニウム
風防素材:プラスチック
ケースサイズ:40mm
防水性能:50m
ムーブメント:Cal.1030、Cal.1066
パワーリザーブ:約48時間
38mmステンレスケースでプラスチック(ベイクライトと呼ばれる世界初の人工合成樹脂)のベゼルを採用しています。’60年代以降の青赤と違いややくすんだような発色が特徴でしたが、割れやすい仕様だったので第二世代Ref.1675ではアルミニウム製に変更されています。
GMTマスターのデザインの基盤となっていて初代モデルにしかないリューズガードがないデザインや、24時間計先端の三角マーカーがとても小さいミニ針が特徴的で、赤青のベゼルは愛称“ペプシ”と呼ばれています。また、1967年くらいまで作られていたミラーダイヤルという表面に光沢がある文字盤の個体や、ミニッツサークルという文字盤上にプリントされたミニッツ表示の大外にサークルラインが入っている個体も存在します。
他にもカレンダーの数字部分が、赤と黒で色分けされているのもファーストモデルのポイントで、奇数日には黒、偶数日には赤が使われています。(GMTだけに使われていたようです)
GMTロゴは太ゴシックを使った横広で60年代の前期までは太い書体が使われ、手書きっぽさがレトロ感のある印象でした。
バー、ドットともにインデックスは夜光塗料の盛り付けで描かれ、手作業でおこなっていたようです。夜光部分には今では珍しいラジウムが使用されていました。(放射性物質であるため1961年頃には使用されなくなりました)
1675(製造期間 1960年代~1980年頃)
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール
ベゼル素材:アルミニウム
風防素材:プラスチック
ケースサイズ:40mm
防水性能:50m
ムーブメント:Cal.1570
パワーリザーブ:約36~48時間
ケース径が40mmへとサイズアップし、リューズを保護するリューズガードが採用されました。リベットブレス・巻きブレス・ハードブレスなどブレスレットバリエーションが豊富で、ロレックスヴィンテージの中でも非常に人気が高いモデルです。
ムーブメントはCal.1066からCal.1570へ変更され耐久性とメンテナンス性が向上しました。
製造期間が長く年式によってミラーダイヤル、ミニッツサークル(サークルラインがある個体と無い個体が混在している)など仕様が異なるモデル(スケールの色もゴールドからホワイトになった)も存在し、カレンダーの日付は1色になっています。
その中でも一番珍しいといわれるのが、’60年〜’63年までのモデルに付けられた24時間針の”ミニ針”使用タイプです。ファーストモデルのミニ針が残っていた、もしくは視認性を考慮して途中で変えたなど諸説あります。
秒針にはドットマーカー、インデックスは盛りつけタイプを使っており、ダイヤルのデザイン的アクセントになっています。夜光部分はトリチウムに変更されました。1675には他にもブラックベゼル、赤×青の愛称”ペプシ”、フクシアベゼル、金無垢モデル、コンビモデルなども存在します。
出典:https://www.bobswatches.com/
※画像はステンレススティール×イエローゴールドコンビの1675、愛称“ルートビア”。アップライトインデックス(フジツボダイヤルともいう)です。
GMTマスターをドレッシーにした仕様であるゴールドコンビモデルは、60年代後半から1675のバリエーションとして市場に出始めます。ステンレススティール×イエローゴールドの組み合わせはそれだけでも高級感がありますが、アップライトと言われる独自の立体的なインデックスによってさらに人気のモデルとなっています。
16750(製造期間 1980年~1988年頃)
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール
ベゼル素材:アルミニウム
風防素材:プラスチック
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3075
パワーリザーブ:約48時間
GMTマスターIのサードモデル。
GMT針を単独で動かせないかわりに日付表示のクイックチェンジを備えており、普段使いしやすいモデルとなっています。
見た目は1675と変わりませんが防水性能が50mから100mに向上しました。ムーブメントは28,000振動(クイックチェンジ機能付き)のCal.3075が搭載されました。夜光塗料を塗布したインデックスには製造年によって「フチなし」とメタル枠のついた「フチあり」の個体が存在します。
16700(製造期間 1990年頃~1999年頃)
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール
ベゼル素材:アルミニウム
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3175
パワーリザーブ:約48時間
GMTマスターI の最終モデル。
メンテナンス性と安定性に優れたムーブメントCal.3175に変更されました。カレンダーのクイックチェンジ機能を備えていることなどから根強い人気のモデルです。シングルロックだったバックルが、1995年頃からダブルロックに変更され実用性が上がっています。風防にはサファイアクリスタルが採用されるようになります。
16760(製造期間 1982年~1988年)
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール
ベゼル素材:アルミニウム
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3085
パワーリザーブ:約48時間
このモデルからGMTマスターIIへと進化しました。搭載されたムーブメント Cal.3085のおかげで短針を単独で動かせるようになり、24時間回転ベゼルと合わせると3か国の時間を表示可能になりました。時刻表現が複数可能となりましたが、カレンダーの早送りはできなくなりました。
ステンレスケースに黒と赤の愛称“コーク”ベゼルのみで、GMTマスターⅠと区別されています。肉厚でグラマラスなケース形状から愛好家の間では「Fat Lady」の愛称でも親しまれています。
約5年間しか製造されていないため流通量が少なく希少なモデルです。
上記は、16760の中でもごく初期にしか存在しない「DATE表記無し」ダイヤル。
12時の「OYSTER PERPETUAL」の後に「DATE」表記が入らないマークⅠダイヤルです。
16710(製造期間 1990年~2007年)
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール
ベゼル素材:アルミニウム
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3185、Cal.3186
パワーリザーブ:約48時間
16760のスタイルを継承しながら、さらに高性能なムーブメントCal.3185・Cal.3186を搭載。
アルミを素材とした独特の風合いのベゼルや、シャープなケース形状が印象的です。1998年頃には夜光塗料がトリチウムからスーパールミノバに変更されました。
1999年、GMTマスターI の生産終了に伴い黒のみと赤青のベゼルが追加されたため、赤黒を入れると3種類のベゼルとなりました。2003年にはケースの横穴が塞がり、風防の6時位置に王冠の透かしが入るようになります。ロングセラーモデルのため様々なマイナーチェンジがあることも16710の特徴です。
116713LN SSxYG(製造期間 2006年 ~2019年 )
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール×イエローゴールド
ベゼル素材:セラミック×イエローゴールド
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3186
パワーリザーブ:約48時間
ステンレススティール×イエローゴールドの頑丈なオイスターブレス、耐磁性能に優れたパラクロムヒゲゼンマイ、大型化され視認性が高くなったインデックスを使用していることなどから人気が高いモデルです。
ブレスレットパーツは無垢になり伸びにくくなったこと、ロゴ・24時間針がシャンパンカラーから見やすいグリーンに変更された点も大きな魅力です。ムーブメントは2013年にはCal.3185から、パラクロム製ヒゲゼンマイを搭載したCal.3186に変更され性能面の向上も図られています。華やかなスポーツモデルを求める人から注目を集めています。
116710LN(製造期間 2007年~2019年)
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール
ベゼル素材:セラミック
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3186
パワーリザーブ:約48時間
ブレスレットパーツは無垢に、セラミックベゼルが使用され高級感が増してGMTマスター人気のきっかけとなったモデルです。
2色ベゼルは姿を消し、24時間針や文字盤のモデル名がコーポレートカラーのグリーンに変更されるなどシックな印象が高い評価を得ています。イエローゴールド無垢、コンビなどの素材違いも存在しますが、人気を集めているのはシーンを選ばず使い易いステンレス素材の本モデルです。
116710BLNR(製造期間 2013年 ~2019年)
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール
ベゼル素材:セラミック
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3186
パワーリザーブ:約48時間
2013年のバーゼルワールドで発表され、2019年までの6年間という短い期間で生産終了となっているモデル。ブルー×ブラックのセラクロムベゼルが、愛称“バットマン”と呼ばれる人気のカラーリングです。
24時間針はレッドからブルーになりました。当時ステンレスタイプではブラックベゼル116710LNとの2モデルが存在しました。
116719BLRO(製造期間 2014年~2018年)
スペック
ケース&ブレス素材:ホワイトゴールド
ベゼル素材:ホワイトゴールド
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3186
パワーリザーブ:約48時間
赤青のベゼルは1955年に発表された初代GMTマスター愛称”ペプシ”の復刻版といわれ、非常に人気が高いベゼルカラーです。
耐久性に優れたセラクロムベゼル、ホワイトゴールドケースを使用しています。通常のセラミック素材では表現しにくいベゼルのレッドカラーを独自開発の新技術で完成させています。
126710BLRO(製造期間 2018年~現在)
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール
ベゼル素材:セラミック
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3285
パワーリザーブ:約70時間
2018年に発売された人気の赤青ベゼル(愛称”ペプシ”)で、スポーツモデルとして数少ないジュビリーブレスとオイスターブレスから選べる人気モデル。
ムーブメントにはパワーリザーブが70時間に延長され、ロレックスの最新技術を駆使したCal.3285が搭載されています。(新たに特許を取得したクロナジー エスケープメントが使われている)
※画像は126710BLROオイスターブレスです。
126711CHNR(製造期間 2018年~現在)
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール×エバーローズゴールド
ベゼル素材:セラクロム
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3285
パワーリザーブ:約70時間
2018年のバーゼルワールドで発表された、GTMマスター初のエバーローズゴールド×ステンレススティールのコンビ「エバーローズロレゾール」のモデルです。
※ロレゾールとはロレックスが作った造語。904Lステンレススチールとゴールドのコンビのことですがこの場合エバーローズゴールドとの組み合わせをさします。
ブラウン×ブラックのセラクロムベゼルは、愛称“ルートビア”または“カフェオレ”などと呼ばれており、ローズゴールドの色合いにマッチするベゼルカラーです。文字盤はシンプルなブラックでバランスのとれたカラーリングとなっています。
126710BLNR(製造期間 2019年~現在)
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール
ベゼル素材:セラミック
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3285
パワーリザーブ:約70時間
2019年のバーゼルワールドで、前モデルの116710を踏襲した青黒ベゼルが発表され大きな話題となりました。ヴィンテージを強く想起させるジュビリーブレスと、堅牢なオイスターブレスとの2種類のブレスレットから選ぶことができます。
±2秒の高精度を達成した完全自社製ムーブメントCal.3285を搭載。
※126710BLNRオイスターブレスです。
126720VTNR(製造期間 2022年 ~現在 )
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール
ベゼル素材:セラミック
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3285
パワーリザーブ:約70時間
2022年のバーゼルワールドで発表された初めてのグリーン×ブラックのベゼルバリエーション。ムーブメントCal.3285を反転させることで9時位置にリューズ・デイト表示を配した、レフティ仕様のモデルです。ムーブメントを反転させているにも関わらず、優秀な精度を保っています。
ヘッドとブレスレットの重量バランスが絶妙かつイージーリンクが搭載されているので、右腕でも左腕でも快適な装着感となっています。
126713GRNR(製造期間 2023年 ~現在)
スペック
ケース&ブレス素材:ステンレススティール×イエローゴールド
ベゼル素材:セラミック×イエローゴールド
風防素材:サファイアクリスタル
ケースサイズ:40mm
防水性能:100m
ムーブメント:Cal.3285
パワーリザーブ:約70時間
素材にイエローロレゾール(ステンレススティール×イエローゴールドとのコンビ)を使い、ベゼルには新しいカラーコンビとなるグレーとブラックのツートンカラーを採用した2023年の新作。
グレーのセラミックベゼル・ブラックダイアルの組み合わせ、文字盤の24時間針にはイエローゴールドが特別な高級感を感じさせます。5列リンクのジュビリーブレスが搭載されしなやかな装着感も人気のモデルです。
最後に
時代に求められて誕生したGMTマスター。第2時間帯の確認が容易に出来るという利便性の高さが魅力のパイロットウォッチです。(第3時間帯を確認する場合はベゼルを回転させる必要があります。)
ベゼルが2色使いなのでファッション性が高く、発売当時からエリートが持つロレックスというイメージも強いモデルですね。
「GMTマスター」には、1955〜99年頃まで製造された「GMTマスターI」と、82年から現在まで続く「GMTマスターII」という2種類のシリーズがあります。ヴィンテージモデル・現行モデルともに人気が高く、資産価値としても注目が高いロレックスです。
「洗練されたデザイン・実用性・高級感」とたくさんの魅力を兼ね備えた人気モデルですので、競争率の高さにも納得のロレックスですね。
この記事を監修してくれた時計博士
Onoda Koichi
一級時計修理技能士取得
高級時計専門店GINZA RASIN 本社 ロジスティック部 商品管理課 主任
1982年生まれ 神奈川県出身 時計業界2005年より
大学卒業後、時計の販売や修理受付を経験した後、修理専門学校に入学。メンテナンスの基本知識を学ぶ。2009年に専門学校卒業後、時計専門の修理会社や国内メーカー、正規輸入代理店で腕を磨き12年以上の時計修理実務経験を経た後、2023年3月より商品管理業務に従事。
なお、国内メーカー在籍時、時計技能競技全国大会に出場した経歴を持つ。