サブマリーナーは、1953年に世界初のダイバーウォッチとしてロレックスで開発されました。防水性に優れ、高密度な機能性を兼ね備えたモデルです。
その上品で端正なルックスは早い段階で確立されており、幅広い層にファンがいることでも有名です。長い歴史を持っていることから、他のモデルとはまた違ったエピソードが多いというのも興味深いところです。
そんなサブマリーナーには、デイトとノンデイト が存在します。今回はサブマリーナーのノンデイトについてご紹介していきます。
サブマリーナー デイト・ノンデイトとは?
1953年にノンデイトが誕生し、その後1969年にカレンダーを搭載したデイトが発売となりました。それ以降(1969年頃〜1989年頃)は、デイトとノンデイトそれぞれ独自路線で展開していた印象です。ノンデイトの特徴について、系譜と共にご紹介します。
サブマリーナーノンデイトの系譜
まずは、オリジナルで最初に開発された「ノンデイト」の系譜についてご紹介します。サブマリーナーノンデイトはエクスプローラーI、ターノグラフと同時期に発売された時計です。
1940年代〜1950年代初頭、ダイビング用品の進化が進み、腕時計業界もダイビング用という新たな需要に合わせ、防水用から潜水用へと目的を進化させる必要がありました。
サブマリーナーは、水中という過酷な環境で活動するダイバーのための防水腕時計として、330フィート(約100m)もの防水性能をもって発表されました。
Ref.6204 (製造期間 1953年頃~1958年頃)
“Ref. 6204”は“Ref.6200”とともに初代サブマリーナ0の一つと考えられていますが、こちらのモデルは1954年のバーゼルワールドで公式発表されています。世界で初めてダイバーズウォッチに回転ベゼルを搭載しており、このモデルのミラーダイヤルは同じ年代に作られた他の腕時計でも見られるデザインとなっています。Cal.A260ムーブメントを搭載しています。
Ref. 6200と同時期に製造された当モデルは、「SUBMARINER」表記の有無やリューズの「+」マークの有無など、個体によって違いがみられ、コレクター心をくすぐります。
Ref.6200 (製造期間 1955年頃~1950年代後半)
1954年に公式発表されたRef.6204の1年前にはサブマリーナーは開発が進んでいたとされています。
Ref. 6200は初代サブマリーナの一つと考えられており、デイト表示はありませんでした。この頃のサブマリーナは個体によって違いがあったとされ、ロゴサイズの大小、「SUBMARINER」表記の有無、「3・6・9インデックス」搭載など様々です。
リューズは近年のサブマリーナでは見られない直径8mmのデカリューズを採用しており、「BREVET」の文字が刻印されています。(ちなみにフランス語で「特許」の意味です。)Cal.A296ムーブメントを搭載しています。
Ref.6205 (製造期間 1956年頃~1958年頃)
Ref.6205は、Ref.6204発表の1年後に登場したモデルです。デザインの違いはほとんどありませんが、ロレックス製自動巻きのCal.A296ムーブメントを搭載したモデルも存在することからRef.6204の進化版と考えられています。(Cal.A260も存在します)
またこれまでに発表されているサブマリーナーと同様に「SUBMARINER」表記や防水表記などに個体差があり、ヴィンテージモデルとして希少性が高くなります。(他にケースやリューズに「+」マークの刻印がある個体なども)
Ref.6536 (製造期間 1956年頃~1960年代前半)
Ref.6536は、初めての“全回転両方向巻き上げ式”を採用した第2世代ムーブメントCal.1030を搭載しています。
サブマリーナーの中でも第2世代にもあたり、同時期に販売されていたRef.6538の拡散モデルとも考えられていますが、Ref.6538が200m防水だったのに対してRef.6536は100m防水でした。
ノンクロノメーター仕様の個体が多いようですが、クロノメーター仕様でダイヤルにクロノメーター表記のある個体も混在しています。
ダイヤルの種類は複数あり、1955年頃〜1965年頃の初期には「SUBMARINER」の表記が防水表記の下にある個体、メーター表記が赤い個体、防水表記の無い個体も存在します。
リューズは6㎜に変更されます。初期と後期でケースの刻印も異なり、初期は「6536」が上列、「BREVET DESIGN」が下部となっていましたが、後期では逆となっています。
Ref.6538 (製造期間 1956年頃~1960年代前半)
Ref.6538は、1962年頃に公開された映画007シリーズ「007 ドクター・ノオ」で、ジェームス・ボンド演じるショーン・コネリーがつけていたことで有名なモデルです。
クロノメーター仕様の個体が多いようですが、クロノメーター仕様でダイヤルにクロノメーター表記のない個体とある個体両方が存在します。
通称「デカリューズ」と呼ばれる直径8mmのリューズには、「BREVET」と刻印されているのが特徴です。
上記のRef.6536同様に、世界初の“両方向巻き上げ式ムーブメントCal.1030”を採用。以前までゼンマイが右回転時だけの巻き上げだったのに対し、左右どちらに回転しても巻き上げられるようになりました。
Ref.5512 (製造期間 1950年代後半~1970年代後半)
Ref.5512は、サブマリーナー史上初のリューズガードを備えた世代として知られています。
クロノメーター仕様のムーブメントを1965年頃から搭載しています。(Cal.1530・1520・1560・1570)
ケースサイズは、40mmとなり、現行モデルへの変遷を見せているモデルです。
このモデルは現在はRef.5513のクロノメーターバージョンとして認知されていますが、生産当初はノンクロノメーターでした。
その為、生産初期に関してはクロノメーター表記のない2行表記のミニッツサークル入りのミラーダイヤル、通称“MMダイヤル”に変更されました。
この後、ミニッツサークルは無くなり、ダイヤルの質感もミラーからマット調へと変わりっていきます。
従前のツインロックリューズから、デイト付きモデルRef.1680の登場をきっかけに全てのサブマリーナーに標準搭載されたトリプルロックリューズに変更されたのは1960年代半ば頃でした。
Ref.5513 (製造期間 1960年代前半~1980年代後半)
Ref.5513は、Ref.5512のノンクロノメーターバージョンとして誕生し、約30年ものあいだ生産されたロングセラーモデルです。
その長い歴史の中で様々なマイナーチェンジが行われ、特にダイヤルのマイナーチェンジが多くみられます。
インデックスには、メタル枠があるものは「フチあり」、ないものは「フチなし」と呼ばれています。
前期モデルである「フチなし」には、メーターファーストやミニッツサークル、ミラーダイヤルなどの希少モデルが多数存在します。
(※写真は、Ref.5513。向かって左がフチなし右がフチありです。)
ケースに関しては初期生産分に、先端がシャープなポインテッドクラウンガード(PCG)が存在します。前述のように進化の過程が垣間見られるモデルは、人気・注目度が高いです。
このモデルはノンクロノメーターですが、特殊機種のベースモデルやイギリス海軍への採用など性能への信頼が高いものとなっています。
Ref.5514 (製造期間 1970年代前半~1970年代後半)
Ref.5514は、ロレックスが他社のために固有のリファレンスを発行した珍しいモデルです。
最も注目すべきところは、モデル表記の上部にプリントされるフランス・マルセイユの潜水会社「COMEX」のロゴです。
他にも、通常よりインデックスが大きい「マキシダイヤル」や、艶のないマットな仕上げや夜光塗料を塗布しただけの「フチなし」インデックスといった特徴もあります。
ヘリウムエスケープバルブを搭載したハイスペックモデルでもあり、COMEXの装備品であったことから市販化はされておらず、極端に流通量が少なく高値で取引される場合が多いです。
Ref.14060 (製造期間 1988年頃~2000年頃)
Ref.14060は、約30年に渡るロングセラーとなったRef.5513の後継モデルとして登場しました。
ノンクロノメーター仕様でありながら、デイト付きモデルRef.16610の廉価版的な位置づけでしたが、日付表示がなく、ガラスに拡大レンズの無い端正でシンプルなデザインであり、価格面からも人気のモデルとなっています。
当時の最先端技術を投入した、信頼性の高いCal.3000ムーブメントを搭載しており、振動数28,800とハイビートでメンテナンス性においても際立っています。またサファイアクリスタル風防を採用し300m防水を実現することで、ダイバーズウォッチとしての機能性を拡張しました。
これより以前のモデルは、両方向回転ベゼルでしたが潜水時に誤って逆回転し、予定より長い潜水時間を示してしまうのを防ぐ為に、逆回転防止ベゼルへと変更されています。
このことにより安全にダイバーが潜れるように進化したモデルです。
Ref.14060M (製造期間 2000年頃~2012年頃)
Ref.14060Mは、Ref.14060から大きなデザイン変更はありませんが、Cal.3000の後継であるCal.3130ムーブメントが搭載となったモデルです。
Cal.3000からの変更点については、テンプを支えるブリッジが1本から2本となり耐衝撃性が向上しています。調整機構もマイクロステラナットからマイクロステラスクリューへ変更され、精度の安定性やメンテナンス性も改善されました。
2001年から製造された前期型とのものと、2006年よりクロノメーター認定を受け、2012年まで製造された後期型のものがあり、その後ノンクロノメーターは無くなっていきます。
(※Ref.14060Mダイヤル。6時位置に王冠の透かしがあります。)
また、このモデルより、模造品が作られることを避けるために2003年頃からダイヤル6時位置に王冠の透かしが入るようになりました。2006年頃にクロノメーター化、ルーレット刻印が入るようになりました。
Ref.114060 (製造期間 2012年頃~2020年頃)
Ref.114060は、ベゼルが耐傷・耐蝕性に優れるセラミックとなり、ケース・ラグやブレスレットが改良され、堅牢性が高められました。
搭載する“Cal.3130”ムーブメントは、2000年から生産されているロングセラーです。安定的な精度を保ち、温度変化や耐衝撃性に優れたパラクロム製ひげゼンマイを備えるなど、高性能なスペックを有しています。
さらに、プラチナ特殊コーティングが施されたベゼルには60分の目盛りが刻まれ、潜水時間と減圧停止を正確に測定できるようになりました。
ブレスレットは、前モデルまでは中空だった中央のリンクパーツが、ソリッドパーツに変わり、堅牢性も高められています。
改良が加えられ、実用性や堅牢性が高められた新型バックル、「グライドロッククラスプ(写真左)」を採用し、工具無しでもブレスの長さ調節が容易にできるようになりました。
ルミノバ夜光塗料の約2倍(8時間)という長さの発光時間がある、「クロマライトディスプレイ(写真右)」も採用しています。
Ref.124060 (製造期間 2020年〜現在)
Ref. 124060は新作Cal.3230ムーブメントを搭載したモデルであり、70時間のロングパワーリザーブが実装されました。
サブマリーナーとしては初めて41mmケースに変更され、コマの幅も1mm広くなりましたが、ラグ幅を1mm小さくする、リューズガードの形状を変更するなどで全体的なバランスをうまく整えられています。
“Cal.3230”は、パラクロム製ヘアスプリングや、パラフレックス・ショック・アブソーバーを搭載しています。独自開発の「クロナジー・エスケープメント」により、よりエネルギー効率と耐磁性を高めました。70時間のロングパワーリザーブを実現し、より信頼性を高めた仕様となっています。
(※写真はRef.124060。6時位置のSWISSとMADEの間にクラウンマークがあります。)
デザインは前モデルからの伝統を踏襲しており、変更はほとんどなく、ダイアル6時位置の表記の「SWISS」と「MADE」の間にクラウンマークが入る程度となっています。
サブマリーナーノンデイトの魅力とは?
サブマリーナーノンデイトは長い歴史があるプロフェッショナルダイバーズウォッチです。以前はデイトと、ノンデイトでムーブメントのグレードやクロノメーター認定の有無といったスペック的な差も設定されていましたが、現行に至ってはほぼ差はありません。
ノンデイトの魅力について以下にまとめてみました。
ノンデイトの魅力
・日付表示が無いのでスッキリとしたダイヤル
・初代から受け継がれる伝統的なデザイン
・日付を合わせる手間が要らない
・デイトモデルよりも安価
サブマリーナーはカレンダーが搭載されたデイトが発表された1969年以降(Ref.1680)、「デイト」「ノンデイト」のモデルが並行して製造されてきました。「ノンデイト」は、オリジナル感があり、クラシカルなロレックスを楽しみたいという方におすすめです。また、価格はデイトよりも10数万円ほど安く手に入り、メンテナンス料金も安く済むことが多いという利点もあります。
最後に
ロレックスサブマリーナーの「ノンデイト」についてご紹介させて頂きました。
サブマリーナーデイトは1969年に発表されたRef.1680からのものなので、それ以前のモデルはすべてカレンダー機能がついていないモデルとなっています。
「ノンデイトの方がメンテナンス費用などが抑えられる」というメリットは大きいです。
是非、好きな世代や材質・仕様などにこだわって、自分だけのお好みの1本を見つけてくださいね。
この記事を監修してくれた時計博士
Endo Youkoh
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC 上級ウォッチコーディネーター取得
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 銀座本店 販売スタッフ
1984年生まれ 神奈川県出身 時計業界2017年より
デザイン系の短大を卒業後、23歳で大手セレクトショップに入社。 主にレディースの服飾雑貨の責任者として、店頭接客・MD・VMD業務に携わる。入社10年目を機に更なるステップアップを目指し、高級時計店への転職を決意。2017年にGINZA RASIN入社。
人と話すのが好きで、スーパーポジティブな私は、現在お気に入りのIWC メカニカルフリーガークロノと共に店舗にて販売業務に従事。アパレル業界での経験を生かし、多角的な視点で記事監修を行っている。